週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.110 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん
「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」
驚きの冒頭に、もう一度タイトルを見返してみる。
『幸福な食卓』瀬尾まいこ/著
本作との出逢いは、中学生の頃だった。
タイトルからは想像できない物語に衝撃を受け、初めて知る感情に、大号泣してしまった。
その後、瀬尾先生の大ファンとなり、夢中で他の作品も読みまくった。
今回の新刊『私たちの世代は』も、ワクワクしながら読み始めた。
『私たちの世代は』
瀬尾まいこ
文藝春秋
心に優しい気持ちが広がる一文一文に、癒されながら読んでいたその時…! あるページを見た瞬間、涙がぼろぼろと溢れて止まらなくなった。それと同時に、非常事態アラームが頭の中で鳴り響く。
読んでいたのは、対面席式の電車の中だった……。あああ……もう恥ずかしすぎて、顔から火が出そうだった。
開いた本を目の高さまで上げ、必死に涙が見えないように、挙動不審で読み続けた。
そして、読み終えた後に、『幸福な食卓』を初めて読んだ時の、感情がよみがえった。
そんな、最初に感じた感動を呼び起された本作を、オススメ3ポイントにてご紹介させていただきたい。
オススメポイント① 私たちに近しい物語に大共感
今までにない感染症が世界に広がり、これまでの生活が激変してしまった現代。それぞれの抱える悩みや苦しみが、私の心にも重なった。そして、限られた生活の中で、大切な人を想う丁寧な気持ちに、心がほぐれていった。
オススメポイント② 生活が変わっても、変わらないものがある
制限された社会の中で、今までのように家族や、友人、大切な人々に会えなくなってしまっても、相手を想う優しさは決して変わらない。物語を通して、お互いを想い合う、細やかな心の交流に、何度も胸に温かな気持ちが込み上げた。
オススメポイント③ ラストに明かされる、プレゼントのような奇跡に涙
出逢うべき人とは、見えない何かでつながっている。例えすれ違ってしまっても、生き続けていれば、再び巡り合える日がくるかもしれない。そんな、まばゆい光のような希望を感じるラストに、全身が幸せな気持ちに包まれた。
瀬尾先生の物語は、いつも心が救われる多くの優しさが溢れている。そして、その優しさには、色々なかたちや種類がある。
私が初めて『幸福な食卓』を読んで出逢った感情は、困難を乗り越え、前へ進むための試練の優しさであった。
人と人との出逢いも、日々過ごしている何気ない日常も、始まりがあれば必ず終わりがある。
明日に希望が見出せなくても、夢がなくても、日々誰かとつながり、心を通わせて生きていく。
その中で感じた、嬉しかったことや苦しかったことに、丁寧に向き合っていく。
自分が決めて、歩き続けた先には、今まで見たことがない新しい世界が広がるかもしれない。
私たちの世代は、これからの世代は、あきらめなければ、ずっと道は続いていく。
疲れた心が回復するような救いの物語。
元気がほしい方に、ぜひオススメしたい1冊だ!
あわせて読みたい本
『リラの花咲くけものみち』
藤岡陽子
光文社
初めての友達、学校、生活。一番初めの体験は、楽しさと緊張がひしめいている。大切な人々との出逢いと別れを通して、一人の少女が、自分自身と丁寧に向き合い、強くしなやかに成長していく姿に心を打たれる。北海道の豊かな自然を舞台に、自分の本当に進みたい道を模索し進んでいく、少女達の温かな人間ドラマに涙が溢れた。前へ進む勇気をいただける1冊。
おすすめの小学館文庫
『小説 あらしのよるに』
きむらゆういち
小学館文庫
嵐の夜、真っ暗な小屋で、お互いの姿が見えない状態で出逢った二人。意気投合し友達になるも、なんと二人はオオカミとヤギだった! 友の絆で結ばれた、二人の行方にずっと目が離せない。そして、優しさとは努力であり、勇気であることを教えていただいた1冊。小説にだけ描かれた本当のラストに、心の奥底から震え、感動が止まらない! 優しい光のような作品。