採れたて本!【国内ミステリ#11】
近年の江戸川乱歩賞受賞者の中でも、昨年、第68回受賞者となった荒木あかねに対する注目度は極めて高い。乱歩賞史上最年少受賞者という話題性もあったにせよ、それは付随的な事柄に過ぎず、やはり読者を驚かせたのは作品自体の質の高さだった。受賞作『此の世の果ての殺人』は、小惑星の接近で滅亡を間近に控えた世界を舞台にしつつ、2人の女性主人公による推理と冒険が清新な印象を与える作品だった。また、受賞後最初に発表した短篇「同好のSHE」も優れた出来であり、早速、複数のアンソロジーに収録されている。
さて、待望の第2長篇『ちぎれた鎖と光の切れ端』は2部構成となっている。帯の惹句でクリスティーの名前が引き合いに出されているのは、第一部が『そして誰もいなくなった』ばりのクローズドサークルものだからだろう。第一部の主人公・樋藤清嗣は、島原湾に浮かぶ海上コテージに集まった8人の男女の1人だが、自分とコテージの管理人を除く6人を、復讐のために殺害しようと企てている。ところが、6人のうち1人が、彼ではない誰かによって殺害された。続いて、第2、第3の犠牲者が……。まずいことに、清嗣の犯行声明は5日後にウェブ上にアップロードされる予定になっていた。このままでは、身に覚えのない殺人の罪を着せられてしまう……。
この海上コテージの連続殺人に一応の決着がついたあと、第二部が幕を開ける。こちらの主人公は、ゴミ袋の収集作業の最中に死体を発見してしまった大阪市環境局の職員・横島真莉愛。彼女をめぐって、第一部とは一見全く無関係なストーリーが展開されてゆくが、読者は2つの事件に奇妙な類似点があることに気づくだろう。果たして第一部と第二部をつなぐミッシング・リンクとは何なのかが、本書の最大の読みどころである。
登場人物がさほど多くないため、真相の構図を早めに予測できる点が弱点といえば弱点だが、意表を衝く動機などさまざまな趣向が鏤められているので、小技の連続によってミステリファンを満足させるように設計されている。
『此の世の果ての殺人』といい「同好のSHE」といい、著者はある出来事をきっかけとして知り合った女性同士の関係性を描くのが巧いが、本書でも第二部に登場する横島真莉愛と刑事の新田如子がいい味を出している。第一部と第二部の対照によって、復讐や愛情による束縛の是非というテーマを掘り下げる趣向も成功しており、大勢の人間が惨殺される内容ながら後味の良さも際立っている。水準以上の第2長篇と言っていい。
『ちぎれた鎖と光の切れ端』
荒木あかね
講談社
評者=千街晶之