鈴木るりか『星に願いを』

鈴木るりか『星に願いを』

自分ですら不可解な感情──アンビバレンスを描きたかった。


 人生は、ゆるす、ゆるさないの連続だ。と言ったのは誰だったか。

── 絶対にゆるさない──。簡単に使ってしまう、思ってしまうけれど、重い言葉だ。誰が誰をゆるさないのか、ゆるすのか。生きていれば誰しもそんな思いをさせられたことがあるし、させたこともあるだろう。

 ゆるす、許す、赦す。作中、田中タツヨは幾度も赦しを乞う。だけど赦されないことは自分が一番知っている。それでも赦しを乞い続けるしかない。

──あとは地獄で清算しろ──。タツヨが背負う罪とはなんなのか。

 アンビバレンス──同一対象に対して、愛と憎しみなど相反する感情を同時に、または交替して抱くこと。互いを思いやる気持ち、愛がないわけではないのに、強い憎しみの対象にもなる、親子、兄弟、夫婦。たとえ血が繋がっていても、心の奥底まではわからない。自分自身さえ、自分のことがわからないことがある。一体なにを考えていたのか、どうしてあんなことをしてしまったのか、できてしまったのか、自分で自分が恐ろしい、そんな「魔の刻」が。果たしてタツヨに訪れた「魔の刻」とは。

 人生は悲喜劇だと思っている。悲劇ばかりでも、喜劇ばかりでもない。後半、思いつめたタツヨが晩夏の太陽に炙られながらとった行動は、状況、心情としては悲劇なのだが、傍から見るとどこか喜劇めいてもいる。

 近年「生きづらい」というのが、現代を象徴する言葉としてあちこちで目にするが、タツヨはそんなふうに考える余裕すらなく、ただひたすらに生きた。過酷な運命を。燃え盛る火車が迎えにくるその日まで。この世の片隅でひっそりと閉じられた命の願いは星に届くのか。

 角度を変え、違う方向から光を当てると、また別の物語が浮かび上がる。

 当初は、前半と後半をそれぞれ別の作品として書くつもりだった。しかし書いている途中で、自然とつながっていった。思えば、ずっとつながっているのだった。『さよなら、田中さん』から、ずっと。今を生きている私たちと同じように。人がいて、歩いてきた道があり、今ここにいる。

 とはいえ、最初からこのような構想があって書き出したわけではないから、これまでの物語と整合性をつけるのには苦心した。しかしそれも思った以上にうまくいったので、なにか見えない力──小説の神様が差配してくれたように思う。自分で書いているのに、なにかによって「書かされている」とも感じた。このように感じられるうちは、自分はきっと書いていけるのだと思っている。

 


鈴木るりか(すずき・るりか)
2003年、東京都生まれ。小学4年、5年、6年時に3年連続で小学館主催の『12歳の文学賞』大賞を受賞。2017年10月、14歳の誕生日に『さよなら、田中さん』でデビュー。12万部を超えるベストセラーに。2018年『14歳、明日の時間割』、2019年『太陽はひとりぼっち』、2020年『私を月に連れてって』を刊行。近著は、2021年2月、現役受験生ながら受験勉強と並行して執筆した『落花流水』。現在、早稲田大学社会科学部2年生。漫画研究会所属。

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