『教室のゴルディロックスゾーン』刊行記念イベント 彩瀬まる×こざわたまこ 特別対談
「これは推しができる本!」2023年7月、大盛堂書店さんで行われた、こざわたまこさんの新刊『教室のゴルディロックスゾーン』の刊行記念イベントにて、ゲストの彩瀬まるさんはそうおっしゃった。本作の魅力を語り尽くしたお二人の対談を抜粋し、小説丸に特別掲載! 小説を書く人は一読の価値ありの、貴重なお話しも……! 進行は大盛堂書店の山本亮さんです。
スランプで唯一書けるもの
山本さん(以下、山本)
本日はよろしくお願いいたします。はじめに、お二人の出会いをお聞きできればと思います。
彩瀬まるさん(以下、彩瀬)
こざわさんに初めて会ったのは、歴代の受賞者も参加する「R-18文学賞」の授賞式でした。受賞作「僕の災い」が、地方の高校生が主人公のガツンとくるストーリーで、また一人手強そうな後輩さんが来たなと思いました。
こざわたまこさん(以下、こざわ)
私は「R-18文学賞」の先輩方が、2011年の震災のときにチャリティー企画で出された「文芸あねもね」(後に新潮文庫より刊行)を拝読したことがきっかけで、彩瀬さんの作品と出会いました。そのあと自分も投稿するようになって、デビュー後に後輩になった感じです。
山本
ありがとうございます。それでは、『教室のゴルディロックスゾーン』執筆のきっかけなどがあれば教えてください。
こざわ
そうですね。まず、中学生を主人公にしたのは今回が初めてでした。私、このお仕事をいただいたときスランプで、大人が書けなくなっていて……。
彩瀬
スランプ、ぶっちゃけるんですね(笑)
こざわ
そうなんです(笑)。お仕事をいただいているから、自分が書けるものをと考えたときに、学生なら書けそうな気がしました。大人のキャラクターで自己陶酔や自己憐憫がすごいと、読者の方にどういうふうに思われるんだろうと思って書けなくなってしまって……。それで中学生ならいいかな、と。悩む年頃だと思うので。
彩瀬
そうか、自己陶酔や自己憐憫が主要なピースにあると言われて、とても納得感がありました。第一話の依子ちゃんが、自分の中の空想に救われている女の子なのですが、大人だったら隠しきれる空想や大切な記憶を、まだ隠せずに表に出してしまうことでしか生きられない。この本を読んでいくにつれて、誰もが依子だよ、という部分があるのがすごくいいなって。
こざわ
空想好きの女の子を主人公にして、その子が空想の世界を持ったまま、または忘れたり距離を置いたりしても大人になれるよ、という小説を書きたいと思っていました。
彩瀬
空想に逃げているキャラクターが、最後に空想を捨てて大人になるっていう構造の物語ってありがちじゃないですか。でもそれって、人の成長がデフォルメされすぎというか。空想を単に悪癖だって切り捨てればいいっていうものではなくて、それをクッションに選んで生きてきた自分を物語が守ってくれている感じがすごく素敵だと思いました。
こざわ
ありがとうございます。空想を糧にして、小説家や脚本家になりストーリーを作る力に変えていくっていう物語も多いなと思っていて。私はそれを10代で読んでいた時、「みんながみんな、そうなれるわけじゃない!」と思っていたので、今回のお話は、依子が小説家の夢を見つけて終わるのだけはやめよう、と決めて書きました。それと、私が書いた小説って「閉塞感がすごい」と言われることが多くて(笑)
彩瀬
誰ですかそんな失礼なことを言った人は~!(笑)
こざわ
私はそれを悪い意味だけじゃなくて、閉じた関係性を書くのが得意なのかなと受け取りました。デビュー作の『負け逃げ』も『仕事は2番』も、閉じたサークル内での人間関係が変わる瞬間を書いていて、少し前のスランプに陥っていた私が一番素直に書けるのが中学校の教室だったんだろうなと思います。
『教室のゴルディロックスゾーン』
こざわたまこ
こざわたまこ
1986年福島県生まれ。専修大学文学部卒。2012年「僕の災い」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。同作を収録した『負け逃げ』でデビュー。その他の著書に『仕事は2番』『君には、言えない』(文庫化にあたり『君に言えなかったこと』から改題)がある。
彩瀬まる
1986年千葉県生まれ。上智大学文学部卒。2010年「花に眩む」で第9回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。著書に『やがて海へと届く』『くちなし』『森があふれる』『新しい星』『かんむり』『花に埋もれる』など多数。