椹野道流の英国つれづれ 第33回

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◆前髪のある小鳥の話 #3

「この子にします!」とは言ったものの、「じゃあ、はいどうぞ」とその場で掴んで渡してもらうわけでは勿論ありません。

まずは、飼育方法についてよく聞き、必要なものを揃えなくては。

その頃、私はようやく銀行口座開設に成功し、日本からの送金(あらかじめ、友人に託してお願いしておいたものです)を受け取れるようになっていました。

カナリア1羽を飼うために必要なアイテムくらいは、迷わず購入することができます。

「また、お前さんはヘンテコな奴を選んだなあ。あっちの赤くて綺麗な奴のほうがいいんじゃないのか?」

私が「うちの子」に決めた前髪カナリア……もといグロスターファンシーカナリア(というのが、マイクに聞いた正式名称でした)を見たジャックは、そんなことを言いながら、思いきり面白がっている様子。

ジーンも「歌なんて歌わなくても、お喋りの相手をしてくれる子ならいいじゃないの。好きな子を貰うのがいちばんよ。とっても可愛い子だわ」と言ってくれました。

マイクとリーブ夫妻、それに私は、最寄りの広大なホームセンターへ向かいました。

そこで購入したのは、大きめの四角いケージとケージカバー、餌入れ、バードネスト、水浴び用の器、フード、副食物、ビタミン剤、ちょっとしたおもちゃ、それにサンドペーパーとコウイカの骨でした。

ラスト2点は、日本で小鳥を飼ったときには見なかったものです。

サンドペーパーは、ケージのサイズに合わせて切り、底に敷くものなのだとか。

なるほど、底紙ですね。日本では、新聞紙を折ってそれにあてていました。

サンドペーパーにしておくと、小鳥の爪がいい感じに削られるという話でしたが、あまりその効果は実感しませんでした。

しかし当時、イギリスのペットショップでは広く売られていたので、一応使ってみることに。

止まり木がとてもツルツルしていたので、マイクのアドバイスで、こちらもサンドペーパーで作った専用カバーを追加購入し、はめて使うことにしました。


「椹野道流の英国つれづれ」アーカイヴ

椹野道流(ふしの・みちる)

兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。

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