週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.34 啓文社西条店 三島政幸さん


ロング・アフタヌーン

『ロング・アフタヌーン』
葉真中 顕
中央公論新社

「犬を飼う」
 リンは、殺処分される予定だった保護犬をシェルターから引き取り、飼うことにした。ニホン犬だったため「タロウ」と名付けた。タロウにはお腹から性器にかけて、ひどい傷があり、痛ましかった。
 リンが犬を飼ったのは、親友のアリサが犬「ジョン」を飼っていたからだ。だが「ドイツ区」に行ったアリサから、ジョンは死んでしまい、新たに「アドルフ」という犬を迎え入れたと連絡があった。アリサからはさらに人類が過去に犯した 〝愚行〟に関する恐ろしい話を聞かされた。その〝愚行〟を知ることで、犬との新たな付き合い方を知ることができると言うのだ……。

 
 葉真中顕さんの最新作『ロング・アフタヌーン』は、上記のようなストーリーの「犬を飼う」という短編から始まる。

 保護犬を引き取る、という日常的なエピソードから、物語は全く予想外の展開を見せ、衝撃的なラストまで一気に読ませるSF的設定の小説だ。

 

 実は「犬を飼う」は、作家志望の志村多恵という女性が新人賞に応募した投稿小説である。

 本書『ロング・アフタヌーン』のもう一人の主人公は、編集者の葛城梨帆。志村多恵が投稿した「犬を飼う」を読み、その年(2013年)の新人賞確実と思って選考会に臨んだ。しかし、選考委員の作家からは否定的な意見が相次ぎ、結局受賞には至らなかった。

 梨帆は多恵に、また小説を書いたらぜひ送って欲しい、と伝えていた。

 それから7年後の2020年暮れ。その志村多恵から突然、新たな小説「長い午後」が届いたのだ。

 

〝女の午後は長いというけれど、私の午後はいつ始まったのだろう。〟

 印象的なフレーズで始まる「長い午後」は、主人公が「長くやりきれない午後」を終わらせるため、自殺を図ろうとする場面から始まる。

 駅のホームで身を投げようとしたその時、高校時代の同級生、亜里砂に肩をつかまれ、飛び降りる機会を逸してしまう。

 しばらく話すうち、主人公は、亜里砂のことが嫌いだったことを思い出す。

 そうだ。最後にこの女を殺してしまおう。

 

 葛城梨帆は、志村多恵の小説「長い午後」を読みながら、自分の編集者としての出来事を思い出していく。そして今も、ある担当作家との付き合い方について悩んでいる。

「長い午後」は、そんな今の境遇が見透かされているような気持ちになる、不思議な作品だった。

 さらに、作者・志村多恵自身の姿が小説「長い午後」の中に投影されているのではないかと感じていた。

 梨帆は小説「長い午後」を通じて自らを振り返り、その小説に揺り動かされていくのだ。

 

『ロング・アフタヌーン』は、作中作「犬を飼う」「長い午後」を挟みながら、葛城梨帆と志村多恵、二人の女性が「小説」を媒介して通じ合っていく作品だ。

 それは同時に「小説」が人に与える力を再認識させてくれる。

 作者・葉真中顕さんの「小説」への思いまで伝わってくるような作品である。

 

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