週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.63 うさぎや矢板店 山田恵理子さん
『あなたの教室』
レティシア・コロンバニ
訳/齋藤可津子
早川書房
この時代、この国に生まれた私達には、当たり前のように文字を教わる学校があり、教室がある。同じ時代を生きていても、地球儀をくるりと回すと、自由に学ぶ機会のない子ども達がいったいどれくらいいるのだろうか?
国際労働機関ILOが4年に一度発表している2021年の児童労働データによると、世界の児童労働者(5〜17歳)数は1億6000万人と推計されていて、世界の子どものおよそ10人に1人だそうだ。その数は想像を遥かに超えていた。
世界で200万部の小説『三つ編み』の著者レティシア・コロンバニの最新作は、学びの機会を奪われたインドの少女がテーマである。
傷ついた心を癒しにインドを旅で訪れたフランス人教師レナは10歳の少女と出会う。レナにとっての愛情、友情、使命感、再生のストーリーにインドの少女の運命が絡んでいく。
インドの少女は養父母から命じられ家のレストランを手伝う毎日で、学校に通わせてもらったことはない。読み書きができないことに気づいたレナが海辺の砂浜で文字を教えると、少女は真綿のように吸収していく。
女に勉強は要らないという因習の地域で親たちから猛烈な反発に合いながらも、少女達のために学校を作ろうとレナは奮闘する。
スクール!スクール!子どもたちが声高らかに、希望の言葉を口にする時、彼らの輝く瞳が目に浮かぶ。未来を切り拓くエネルギーがそこにある。
さらには、不可触民(ダリット)という身分制度に抗い、性暴力に対して自衛する女性集団のリーダーと出会ったことからも、レナの運命は動き出す。ダリットで女性に生まれたならば絶望的と言われる苦境の中、彼女達の勇気はレナをも巻き込む強い生命力の灯火となる。
今なお残る児童結婚問題も、ストーリーの中から衝撃的に伝わってくる。ユニセフの統計では、世界の約5人に1人の女性が児童婚を経験していることに驚く。国際社会の中で、いたいけな少女達を守りたい。
この世界では女の子に生まれたことから教育の場が奪われる現実がある。自分でも《女だから》《女のくせに》は言われたくない言葉だ。男という言葉に置き換えれば逆の辛いプレッシャーもあることだろう。女の子だけでなく男の子も、地上のたいせつな子ども達。
学校に通うことから人生の選択ができるようにしたい。無邪気な子ども達の未来の輝きを守るレナの愛が海を越えてさざなみのように伝わる物語。
一冊の本がどれほどの可能性になるだろうか?本には見えない翼が生えていると私は思う。いつ誰が読むかはわからない。どこまでも飛んでいけ。
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