週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.67 TSUTAYA中万々店 山中由貴さん
『いけないⅡ』
道尾秀介
文藝春秋
姉が行方不明になった。
それから一年経って、姉の不在はあたりまえになった。
姉宛てに届く年賀状、それを伝える口実で姉のスマホに送るメッセージ。ずっと既読はつかない。それでも送りつづけ、いつか電源が入る瞬間を待つ家族。
その、淡々としていながらどこかが裂けて空気の漏れつづける日常が、淡々としているからこそなまなましい。あれ、道尾秀介さんはこんなにも手触りのある描写をするひとだったっけ。読者を騙すテクニックには、いつも唸らされていたけれど──。
そして。
ここまでのあらすじで、すでにいくつも伏線は張り巡らされている。
『いけない』、『いけないⅡ』は、型破りな作品だ。
各章の物語を読み終えてページをめくると、そこには一枚の写真がある。写真だけ見てもきっと意味はわからない。けれどその写真によって、わたしたちは物語には書かれなかった真相を知ることになる。小説であるにもかかわらず結末を写真にゆだねてしまう、ある意味究極の実験的ミステリだ。
とくに『いけないⅡ』はすごい。鳥肌がおさまらない。道尾さん自身も言及しているのだが、一作目を超える完成度とおもしろさだ。真相を写真で見せなければならない理由が、ちゃんとそこにあるのだ。まずは小説部分で、冒頭でも触れたような描写のなまなましさ、心理的に追い詰められてこちらまで息が苦しくなるような切迫感が、読者をずぶずぶと沼に引き込んでゆく。仕掛けを見破ろうとする冷静さは失われ、感情をもみくちゃにされながら手探りで読んでいくしかない。そんな読書でいったん休もうなんて思えるはずもない。ページをどんどんめくっていって、最後の最後で手に掴むもの。それが「写真」だ。そこにはまさに、写真でしか味わえない視覚による衝撃が待っている。
この楽しさを、誰かと喋りたい。写真の意味を読み解いたはずのじぶんの解釈を聞いてほしいし、それが正解なのか読んだ人の意見を聴きたい。これほど誰もが語り合いたくなる本は、そうはないはずだ。ちょっと誰か!!!読みませんか!!!あそこ、すごくないですか!!!そう叫びたくなるのだ。
ということで、わたしは今いろんな人に本を貸しまくっている。
あわせて読みたい本
わたしがこの本を手にとったのは、夢中になれる本になかなか巡り会えないでいるときだった。読者を完全に欺く第一章の仕掛け、そしてそこから最終章の最後に添えられた写真を見たときの驚愕。本に喰らいついて謎解きに熱中する楽しさをとり戻させてくれた作品だ。
おすすめの小学館文庫
『月館の殺人(上)』
まんが/佐々木倫子
原作/綾辻行人
小学館文庫
『十角館の殺人』の綾辻行人さんと『動物のお医者さん』の佐々木倫子さんがタッグを組んだ異色の本格ミステリ漫画!いや、よくぞこのすごいふたりに依頼しましたね、小学館さん!!!鉄オタたちが集まった列車内で、殺人事件が起きるのだが──。佐々木さんのとぼけた持ち味が遺憾なく発揮された名作です。
今回でわたしの担当分は最終回!読んでくださったみなさん、なにか本を手にとるきっかけになったという方(いるのかな)、ありがとうございました。
これからもぜひ、本屋さんに足を運んでくださいね!