◎編集者コラム◎

『小説王』早見和真


『小説王』早見和真


 大学時代。憂鬱な月曜日の通学を奮い立たせてくれたのが、「週刊ビッグコミックスピリッツ」だった。キオスクで買い、電車で読む。夢中になれる時間だった。連載陣はつぶぞろいで、中でも漫画家と編集者の熱い生き様が描かれた土田世紀さんの「編集王」が大好きだった。今の会社に入れたのもこの作品のおかげだと思っている。

 時は経ち、編集者として早見和真さんと仕事をすべく打合せを重ねていた。早見作品の中では、強豪野球部の補欠視点で描かれた『ひゃくはち』、平穏な家庭が実は砂上の楼閣であった『ぼくたちの家族』など、早見さん自身の体験をもとにした(と思わせられる)作品こそが面白いと感じていた私は、ある日の打合せで、「編集王」のような作家と編集者の話はどうかと切り出してみた。そのあたりの経緯は瀧井朝世さんの著者インタビュー(PickUP 早見和真『小説王』インタビュー)にまとめられている。

「小説はオワコンか?」という問いを突きつけられる作家と編集者の物語は、連載中から反響を呼び、2016年5月に単行本を刊行した。故・土田世紀さんの装画は話題となり、多くの書店員さんから熱い感想が寄せられ、著名な書評家にも取り上げられ、インタビュー依頼も多かったものの、結局は初版止まりだった。本屋大賞ベスト10にも及ばなかった。結果を出せず、負けたような気がしていた。

 状況が一変したのは、文庫化でどう巻き返そうかと考えていた昨年のことだ。春頃にコミカライズの依頼が「月刊ヤングエース」からきた。続いて夏前には、フジテレビから連続ドラマ化の依頼がくる。ジャンルは異なるが、『小説王』の熱に浮かされたクリエイターたちが当事者になるべく名乗りをあげてくれたのだ。漫画連載のネームに熱くなり、ドラマの脚本に赤字を入れつつ、文庫の原稿を見直していく日々は、『小説王』の面白さを再発見するようで、楽しかった。

 文庫のカバーは、熱さだけじゃなくて、本格的な、王道のような感じを目指した。すべてはより多くの人に手にとってもらうために。

 解説を寄せてくれたのは、『みかづき』で話題の森絵都さんだ。これがいいのだ。『小説王』に内包されているものを、丁寧にすくい取ってくれていて、恥ずかしながら原稿を読んで泣いてしまった。ダマされたと思って、是非ともご一読いただきたい。

 最後に。『小説王』は出版界を舞台にしているが、ほかの業界でも、テクノロジーの進展や環境の変化で、閉塞感を抱きながら働いている人は増えていると感じている。そんな中でも思考停止することなく、想像すること。その大切さに気づかされる一冊が、『小説王』だと思う。本好きはもちろんのこと、すべての働く人に読んでほしい熱い物語だ。

 そして読み終えた時、また次の一冊へと手を伸ばしてもらえたら、これ以上の喜びはない。

──『小説王』担当者より
 
syoei
 


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