◎編集者コラム◎ 『テッパン』上田健次

◎編集者コラム◎

『テッパン』上田健次


 季節の巡りは早いもので、寒さ厳しい日が続いていたと思っていたら、急に暖かくなってきました。

 例年ならば、もうすぐやってくるお花見の季節に心躍らせる時期でしょうか。残念ながら、今年は皆で集まることは難しそうですが……できることならば、せめてお散歩ついでにお花見スポットに立ち寄り、桜を眺めながらおいしい屋台グルメでもいただきたいものです。

 3月に刊行した『テッパン』を読んでいると、屋台のおいしそうな「焼きそば」が登場するので、特にその想いが強まります。

 

 著者は、本作がデビュー作となる上田健次先生。上田先生は2019年に第1回「日本おいしい小説大賞」に本作を投稿し、惜しくも受賞は逃しましたが「この作品を埋もれさせるのは、あまりにも惜しい」という編集部内の声を受け、デビューされることとなりました。

 本作の主人公は、中学卒業と同時に渡米し長らく日本を留守にしていた吉田倫。吉田は旧友である寿司屋の主からの誘いに応じて、中学の同窓会に赴きます。

 同窓会のメインイベントは当時作ったタイムカプセルを皆で開けること。タイムカプセルの中に入っていたのは、アイドルのブロマイドに『なめ猫』の缶ペンケース等々。懐かしいグッズの数々に、同級生たちの会話は盛り上がります。

 そんな中、吉田は自身のタイムカプセルの中から出てきた『ビニ本』と『警棒』、そして小さく折りたたまれた『おみくじ』を見ながら、中学三年の夏休みに出会った町一番の不良、東屋とのことを思い出します。そうして吉田の記憶をなぞるように、物語は舞台を80年代の東京に移していくのですが……。

 とにかくこの作品、焼きそばにお好み焼き、そしてステーキと、ジュージューと音をたてる、しずる感あふれる、おいしさ間違いなしのまさに〝テッパン(鉄板)〟料理がたくさん登場します。上田先生が料理上手ということもあり、その描写のおいしそうなことといったら……!

 さらに生唾が落ちるだけではなく、吉田の回想が終わり現在に戻ってから描かれる、まさかのラストシーンは落涙必至。担当編集者として、ゆうに10回以上は本作を読んでいるのですが、毎回このラストシーンには、泣かされてしまいます……!

 生唾&落涙確率100%。圧巻の感動デビュー作。読んでいただければ、なぜ私たち編集部が2年越しにでも本作を刊行したのか、その理由が分かると思います。ぜひ、ご一読ください。

──『テッパン』担当者より

テッパン

『テッパン』
上田健次

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