◎編集者コラム◎ 『旅立ち寿ぎ申し候〈新装版〉』永井紗耶子

◎編集者コラム◎

『旅立ち寿ぎ申し候〈新装版〉』永井紗耶子


『旅立ち寿ぎ申し候〈新装版〉』写真
江戸経済の中心ともいえる日本橋。本作で舞台となった土地のにぎやかさを、高杉千明先生が浮世絵調に描いてくださいました。

 2023年、『木挽町のあだ討ち』で、第36回山本周五郎賞と第169回直木三十五賞をダブル受賞、今や押しも押されもせぬ、歴史時代作家となった永井紗耶子先生。

 その永井先生のデビュー作『絡繰り心中』の次作が本書となります。

 時は風雲急を告げる幕末。紙問屋の手代から若旦那となったばかりの主人公・勘七が、とある藩にだまされて莫大な借金を抱えてしまい、命懸けで再建を図りながら全額返済、商売を軌道に乗せるまでの懊悩と奮闘を描いた青春商人道小説の大傑作です。

 幕末の桜田門外の変から戊辰戦争終結後の明治までを一気に駆け抜けるのですが、災難また災難とばかりに主人公に危機が訪れるため、時代小説なのにまるでサスペンス小説を読んでいるかのように早く先を知りたくなって、ページをめくる手が止まらなくなります。

 さらに、気になる登場人物も盛りだくさんで、各人に感情移入して事あるごとに一喜一憂してしまいます。

 なかでも、気になって仕方なくなるのが次の三人。

 一人目は、老舗醤油問屋広屋の主・浜口儀兵衛。現代でも有名な一流企業・ヤマサ醤油の七代目当主です。

 二人目は、高島屋嘉右衛門。「横浜の父」とも「横浜三名士」ともいわれ、その業績は高島町という地名にもなっているほど(ちなみに、現代の百貨店・髙島屋とは関係ありません)。

 三人目の勝麟太郎は、言わずと知れた、「幕末の三舟」と称えられた幕臣・勝海舟。

 彼ら実在の人物が主人公に向けて放つ叱咤激励が、実にいい味を出していて、現代に生きる我々の胸をじんわりと、時に熱く打つのです。

 そして、巻末に載っている細谷正充先生の解説も、微に入り細をうがつように本書を読み解いていただいて、読みごたえ十分な素晴らしい内容です。

 ぜひ隅から隅までご堪能ください。

──『旅立ち寿ぎ申し候〈新装版〉』担当編集者より

旅立ち寿ぎ申し候〈新装版〉
『旅立ち寿ぎ申し候〈新装版〉』
永井紗耶子
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