【前編】書籍化決定! 大好評連載・茨城県民マンガ『だっぺ帝国の逆襲』 画/佐藤ダイン×監修/青木智也 座談会
連載開始とともに大人気化し、ラジオ番組までできてしまった茨城県民マンガ『だっぺ帝国の逆襲』。P+D MAGAZINEでの連載に新しいエピソードを追加し、いよいよ単行本化されます。立ち上げ当初の苦労から取材時のエピソードなどについて、漫画担当の佐藤ダイン氏、監修の青木智也氏に語り合ってもらいました!
左:佐藤ダイン氏
右:青木智也氏
あえて泥臭い絵で勝負しました(佐藤)
セリフを茨城弁化するのが大変でした(青木)
――約1年半にわたるP+D MAGAZINEでの連載を経て、いよいよ単行本が発売されますね。
最初に「茨城の魅力を伝えるマンガをつくりませんか」というオファーがあったとき、どう思われましたか?
佐藤ダイン(以下佐藤):企画自体は「おもしろそうだな」と思ったんですが、「県+漫画」というカテゴリーでは、『翔んで埼玉』や『お前はまだグンマを知らない』という、映画化やアニメ化もされた先例があるので、それと違うものがつくれるか、不安もありました。同じ路線で勝負しても、なかなか勝てないでしょうからね。
監修をしてくれた青木さんと試行錯誤しながらストーリーを練っていったのですが、荒唐無稽なギャグ漫画ではなく、現実路線というか、地域密着型の展開にしてよかったのではないかと思います。
青木智也(以下青木):僕はラジオなどでしゃべったり、本を書いたりしたことはありましたが、茨城を漫画で紹介するというアプローチはやったことがなかったので、新鮮でしたね。
ただ、単純な「茨城の漫画」ではなく、それが茨城のPRになっていないといけないところがすごく難しかったし、キャラクターにどうおもしろくしゃべらせるかという点でも悩みました。
佐藤:僕の絵柄が最近の流行りとは違っていて、ダサいというか、暑苦しいと思っているのですが、それが茨城のイメージと重なるんじゃないかと勝手に思っていて……。ちょっとダサくて古臭いけど、泥臭さみたいなものは意識して出していこうと考え、描き込みは減らさず、時間をかけて仕上げたつもりです。
もともと青年漫画志望で、描き込んだ絵柄が好きだったんですが、あんまりうまくいかなくて、簡素な絵柄にしたこともありました。でも、この路線でいいのか悩んでいたところにお話をいただいて、じゃあもう一度、全力で自分の好きな絵柄で挑んでみようと。
青木:茨城の漫画なのでキャラクターが茨城弁を使うのは当たり前ですが、実際にセリフを茨城弁だけにすると、ものすごく読みにくくなってしまうんですよ。茨城弁は基本的に話し言葉なので、そのまま文字にすると伝わりにくくなってしまう。
それで悩んだのですが、最終的にはヒロインの五月が、怒ると茨城弁になる、ということで落ち着きました。セリフを茨城弁にしたのは、全体の5~10%くらいですかね。
――五月は茨城愛が強すぎるキャラクターとして描かれていますが、おふたりはいかがですか?
佐藤:うーん……、高校を卒業してから茨城を離れたんですが、大学などで出身地を聞かれたときに即答するのがためらわれて、なんとなく後ろめたい気持ちになることがありました。でも、「茨城です」と答えたらウケることもわかっていたので、ネタにしていたこともあります。
だから五月のようなストレートな茨城愛ではなくて、自虐的な意味での愛だったんじゃないかな。
青木:私も東京でサラリーマンを経験していますが、都内で茨城弁を話すとウケるんです。地元ネタや田舎ネタって、皆さん興味持ってくれるんだな、って。「茨城のヤンキーのマネ」とかやっていました(笑)。
一度東京に出たことによって、「茨城ってこんなところ」っていうのがより鮮明に見えてきたので、それを、地元で生かしていきたいという思いはあります。
――最初は手探りで始めた連載が、予定をかなりオーバーして1年以上続いたわけですが、率直な感想は?
青木:色々なことがありましたが、純粋に楽しかったですね。その一言に尽きます。さまざまなところを訪問できたし、印象深かったエピソードも盛りだくさんでした。
佐藤:僕は、自分があまり出歩くタイプではないし、高校までしか茨城にいなかったこともあり、主人公のダイゴ(註:佐藤さんの出身地、大子町にちなんでいます)と同じように、最初は茨城のことを何も知らない状態だったんです。
でも、漫画を通じて、茨城にはこんなにもおもしろいところがあるんだ、というのを実感しましたね。
完熟メロンのおいしさと香りに感激しました(青木)
霞ヶ浦の「れんこん」が格別な味でした(佐藤)
――取材に行ったところで印象に残っていることはありますか?
佐藤:「東筑波ユートピア」(単行本第17話)の坂道がキツかったですね。あれはホントにすごかった。「ここで合ってるのかな……?」と思うような道だったし……。
それから、「ガマ洞窟」もシュールでしたね。
青木:「東筑波ユートピア」もそうですが、取り残された昭和感みたいなのがあって、雑然とした感じがなんともいえない印象でしたね。朽ち果てる直前で踏みとどまっているという……。
――連載のクライマックスに筑波山が出てきますが、おふたりは実際に登られたんですか?
青木:小学校の遠足のコースに組み込まれていたんですよ。1年生が東筑波ユートピアで、3年生が筑波山登山。そこで初めて登って、あとは大人になってからも家族で何度か登っています。
筑波山って、百名山のひとつに数えられていますが、敷居は高くなくて気軽に登れます。筑波山より南に山がないので、見晴らしも良くて関東平野が一望できるんですよ。
佐藤:僕は、ケーブルカーとロープウェイの内部が実際にはどうなっているのか、時間はどれくらいかかるのかなどを知りたかったので、一人で行ってみました。
登山はしていないんですけど、(筑波山の)男体山と女体山を結ぶ山頂連絡路を歩いて、夏場だったので汗だくで、いい思い出になりました。
――食べ物で印象に残っているものはありますか? 『だっぺ帝国の逆襲』では何度か納豆が登場しましたが。
青木:納豆は身近な食べ物なので、これ以上夢中になることはないだろうと思っていたんですが、この連載が始まってからハマってしまったのが「そぼろ納豆」(単行本第6話)です。「これ、おいしいよ」と人から勧められて以来、お店で見かけると買うようになりました。
納豆に切り干し大根が入っている茨城独特のもので、じつは切り干し大根自体が好きでなかったんですが、大根くささがなくて、歯ごたえがよくて、味付けもいいんですよ。
セイコーマート(北海道のコンビニだが、なぜか茨城と埼玉に店舗がある)や茨城のスーパーに置かれているので、見かけたらぜひ試してみてください。
佐藤:納豆は毎日当たり前にあるもの、必ず食べるもの、というイメージですね。家の冷蔵庫にはいつでも「くめ納豆」が入っています。
青木:その家々でこだわりの銘柄があると思うのですが、うちも「くめ納豆」ですね。全国的な知名度はありませんが、常陸大宮の「舟納豆」(単行本第20話)をひいきにする人も多いようです。
やはり納豆をよく食べる東北地方では、料理の材料として納豆を使うことが多いと聞きますが、茨城では圧倒的に王道の「ご飯に納豆」ですね。
納豆以外で茨城ならではだな、と思ったのは「メロンの食べ比べ」です(単行本第15話)。一般的にはメロンというと高級品で、一切れを大事にいただく、というイメージですが、真っ二つに切ったのをスプーンで食べるという豪快な食べ方を経験させてもらいました。切ったときの香りもよくて、さすが名産地の完熟メロンだと思いましたね。
佐藤:僕は、食べ物と取材相手のキャラクターをいっしょに記憶していて、「メロンの森」の白井透社長とか、野口農園(れんこん)の野口憲一さん(単行本第8話)が印象に残っています。とくに刺身や素揚げでいただいた高級れんこんの味が格別でしたね。
青木:そうそう。霞ケ浦周辺でれんこんの生産が盛んだということは知っていましたが、生で食べられるような品種があることは知らなかったので、ちょっと衝撃的でした。れんこんは普段から食べていますが、初めて「れんこんって、こんなにおいしいんだ」と思いましたね。
佐藤:野口さんは熱く思いを語る方だったのですが、味に納得できたので、絵もスムーズに描けました。味を知らなかったら、ああいう漫画にはならなかったと思いますよ(笑)。
あと、軍鶏もおいしかったですね。あのお店(弥満喜/単行本第20話)は実家の近くなのですが、普段使いで行ける店ではないと思っていたので、あまり行ったことがなかったんですが、肉も卵もびっくりするほどおいしかったなぁ。さすが“奥久慈”の味です!
青木:あっ、あのとき用事があっていけなかったんだ! もったいないことをしたな……(笑)。
茨城グルメの話が止まらない模様ですが、続きは【後編】で。ラジオ「だっぺ帝国の逆襲」や今後の夢を語り合ってもらいます!
【単行本発売情報】
10月6日 全国書店・セイコーマート(茨城、埼玉)で発売
定価 1870円(税込) 電子版も同時発売。
■著者プロフィール
・画 佐藤ダイン
1984年、茨城県大子町出身。芸術系の大学在学中から漫画誌に投稿を続ける。サラリーマン生活、漫画家のアシスタントを経て、『桃色な片想い』(『月刊!スピリッツ』)でデビュー。
2016年、『僕に彼女が出来るまで』が『ふんわりジャンプ』で連載、単行本化される。
・監修 青木智也
1973年、茨城県常総市(旧石下町)出身。
東京でサラリーマン生活を経験するも、茨城にUターン。フリーのライター、コメンテイター、ラッパーとして活動を続ける。WEBサイト「茨城王(イバラキング)」を立ち上げるかたわら、常総ふるさと大使、いばらき統計サポーター、茨城県まちづくりアドバイザーなどとしても活動。茨城放送、ラヂオつくば等でパーソナリティも務める。
初出:P+D MAGAZINE(2021/10/05)