ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第110回

ハクマン第110回
最近の漫画は分業制だ。
指示出しが苦手な私は
結局1人で描いている。

それができてなければ、原作は「思ったように描いてくれない」となるし、作画の人も「ちゃんと指示してくれなければ二十代の俺に中年のむくみがわかるわけがない」という軋轢が発生し、結局誰かが消えることになりかねない。

ただ「あとは作画の人に一任する」という形で、原作だけ渡し、あとは特に指示をしないという形も不可能ではないのかもしれない。

しかし「こっちが指示をしなければ相手は何をしていいかさえわからない」という時、私が指示する側になると悲惨である。

その昔、原作ではなく原案協力という形で、人と一緒に漫画を作ったことはあったのだが、原案協力が具体的に何をするのかを決めずに「私の指示により随時資料やエピソードを集めてくる」という形にしてしまったのが終わりの始まりであった。

何せ作者が一話先の展開すら考えていないので「次はこういう話になるのでこういう資料を集めてください」という指示を出すことができないのである。
仮に指示したいことがあってもそれを伝える能力がないため、今日入った新人バイトに「今はやることないから、できそうなことやって」と言う、使えないパイセンみたいなことを言いだしてしまうのだ。

案の上、私が指示を上手く出せないため、原案の人は自主的に使えそうな話を送ってくるという感じで、あまり作品に関われない状態になっていた。

その状態に、何故か原案の人を連れて来た担当がキレ、原案の人が謝り、私も「指示を出せない私の不徳の致すところ」と謝るという地獄が展開され、それが原因ではないが、結局1人で描くことになった。

今でも原案の人には悪いことをしたと思う、やはり私は誰かと仕事をすることに向いていない。

しかし、何故担当があんなにキレたのか、それは今でも合点がいっていない。

「ハクマン」第110回

(つづく)
次回更新予定日 2023-07-10

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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