ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第111回

「ハクマン」第111回
「Twitter はおしまいだ」
と騒がれているが、
移住先が見つからない。

他のSNSに移って宣伝を続けたら良いと思うかもしれない。
確かに現在でも Twitter と似ていてAPIを突然制限しないSNSはすでに存在するだろう。
しかし、どのSNSも「Twitter より人がいない」のだ。

109の巨大広告は渋谷のスクランブル交差点にあるから価値があり、我が村にあれを建てたところで宣伝効果はない。
「あのビルのせいで俺の畑に日が当たらなくなった」などの揉め事が起き、死傷者多数の暴動現場として全国ニュースに映り込める可能性はあるが、それは却ってマイナスのような気もする。

内輪でやりとりするだけなら、人口が少ないSNSでも問題ないが、広く知られることを目的とした「宣伝」のためにSNSをやっている者にとっては、そうは言ってもまだ膨大な人間が使っている Twitter が存続してくれた方が助かるのである。

また Twitter がなくなったら、せっかく獲得した「フォロワー」が無に帰してしまう。
冨樫先生レベルになれば「Twitter をはじめた」というだけで100万単位のフォロワーを獲得できるが、普通はそう簡単ではなく、多くの人が毎日漫画を投稿するなどしてコツコツフォロワーを増やしてきたのだ。

新しいSNSに移ったところで Twitter のフォロワーが全員ついてくるわけもなく、私の場合「面構えが違う」と評されそうな読者が5人ぐらいついてくるだけな気がする。

私のフォロワーも特別多いわけではないが10年以上かけて獲得したものである。
それを捨てて一からやり直すより、悔しいが Twitter が存続してくれた方が助かるのだ。

しかし、フォロワーも大事だが、10年以上コツコツ Twitter というドブに時間を捨てたことの方が問題であり、そして Twitter が存続することにより、これから捨てる時間の方を大事にした方が良いのかもしれない。

「ハクマン」第111回

(つづく)
次回更新予定日 2023-07-25

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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