ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第122回
久しぶりに編集部へ行くと
漫画家と編集者の熱い打ち合わせが
すぐ横で繰り広げられていた。
そんなわけで久しぶりにS学館に行ったのだが、S学館の編集部の前には家で仕事をしていたら永遠にソリティアをしてしまう漫画家が作業をするスペース兼打ち合わせをするブースが存在する。
そしてそこには、かの有名な「作家がサインをする壁面」が存在する。
藤子不二雄A先生や浦沢直樹先生をはじめとし、有名な作家のイラストつきサインがところ狭しと壁一面に描かれている。剥がして売ったらさぞ金になるだろうし、高名な作家の直筆絵を見て「換金」としか思わないから俺はダメなのだろう。
そのブースで、編集長がやってくるのを虚空を見つめながら待っていたのだが、私の前後のブースではまさに作家と編集者の打ち合わせが行われていた。
高圧的な編集者による圧迫打ち合わせが必ず1件は行われていることで有名なS学館の打ち合わせブースだが、今回は圧迫というより熱い電話打ち合わせが行われていた。
断片的にしか聞こえないが、ここを決めゴマにするのはいかがなものか、読者に誤解を与えるのではないか、という編集の強い意見が発せられている。
電話なので、それに対し作家がどう答えたのかはわからないが、私が滞在した小1時間の間ずっと話が終わっていなかったので、丁々発止のやり取りが行われていたに違いない。
つまり私が今まで担当と打ち合わせした通算時間を超える勢いを毎回1話にこめて描いているということである。
私はその熱意に感動することなく、たまに漏れ聞こえてくるキャラクター名から作品を特定しようとしていた。
後ろにこんなインターネットキモ野郎がいるとも気づかず、熱いやりとりは続いて行き「じゃあできれば今日中に」という衝撃的な言葉が編集者から発せられた。
その時すでに19時であり、私だったら灰皿案件なので、やはり打ち合わせはリモートに限る。
ちなみにその場ではわからなかったが、家に帰ってから無事に作品名は特定することができた。アイドルの瞳に映った背景から住所を特定する奴が現れるのも当然である。
どうやらかなり調子のいい作品のようだ。
調子がいいにもかかわらず「この調子でドンドン描いちゃっていきまっしょい」となっていないのがすごい。
しかし、私の作品はすぐに不調になるため、編集者も秒で「勝手にしやがれ」と壁際で寝返りを打ち始めてしまうだけで、売れている作品ほど毎回油断なく打ち合わせが行われているのかもしれない。