ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第132回

「ハクマン」第132回漫画雑誌以外に掲載される
漫画は読まれる率が高いし
目をみはる展開だったりする。

漫画の技術は漫画を描くことにしか使えない、食パンの袋を留めているプラよりも使いどころに欠けるスキルだが、漫画自体の汎用性はかなり広い。

所詮人間は判断の90%を視覚に頼っている下等生物である。

せっかくすごくいい匂いのブスに出会っても「ブスのくせにいい匂い」とすら思えず「ブスほど香水がキツい」など、カレーの如く視覚に全てを飲み込まれてしまうのだ。

ただし、視覚だけで判断して損している部分も多いとは思うが、だからこそ形が男根に見えるというだけの野菜や柴犬を見てあそこまではしゃげるとも言える。

よって、何かを教える時は言葉や文章で説明するより、実際にやって見せた方が早いのだ。

しかし「今朝すごいでかいウンコが出た」という話だけなら、笑い話で終わるが、実物の写真を見せた時点で、雲行きとその後の人間関係が変わって来るので、必ずしも実物を見せた方がいいというわけでもない。

また「人間を200度の油につけた時のリアクション」や「トラック転生に失敗した人」などを、いちいち実物で説明するのは用意や後片付けが大変である。

そこで、イラストの出番が出て来るし、漫画が登場する場合もある。

実際「学習漫画」というジャンルもあり、そこら辺の2巻打ち切り漫画より、よほど重宝され、売れているのだ。

また漫画には箸休め的効果があるのか、文章中心の雑誌でも間に漫画が入っていることが多い。

そして、こういう漫画雑誌以外に掲載されている漫画は読まれる率が高い。

漫画雑誌であれば全て漫画なので、その中から面白そうなのだけを読むが、それ以外の雑誌だと漫画はそれしかない場合もあるので、アマチュア無線部に入って来た唯一の女子のように、それを尊ぶしかないのだ。

幼少期、連れてこられた病院待合室の雑誌が全く子供を想定していないラインナップであっても、週刊誌の中から漫画を見つけ出して読んだものだ。その時見た女を悶絶させる只野仁の雄姿は今も忘れていない。

漫画雑誌以外の漫画だからと言ってクオリティが低いというわけではなく、そこからヒット作も出ているし、人知れず長寿連載を続けている作品もある。

そういう漫画は女性向け週刊誌であれば、恋愛や不倫など、雑誌の読者層を強く意識した内容になっている場合が多い。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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