ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第132回

「ハクマン」第132回漫画雑誌以外に掲載される
漫画は読まれる率が高いし
目をみはる展開だったりする。

私が一番「この雑誌ならではの漫画だな」と思ったのが、スピリチュアル系雑誌に掲載されていた漫画である。

1ページ程度の短い漫画だったのだが、まず主人公は、何となく冴えない毎日を送っている女性である。

そんな彼女に友人が「知り合いにゼウスの生まれ変わりがいるんだけど会ってみないか」と言われるのだ。

ちなみにこれが2コマ目である、今の読者はこのぐらい展開が速くないとすぐに飽きてしまう、という今の漫画界を良く理解した素晴らしい話運びだ、私も見習いたい。

これが普通の女性週刊誌であれば、自称ゼウスのイケメン率いるセックス教団に全てを搾り取られ、最後裏切者としてリンチされて死んだところからループして、今度は教団の女帝を目指すが、なぜかイケメン教祖に溺愛されちゃってます展開になると思う。

しかし、スピリチュアル雑誌はそんな俗な話にはならない、ゼウスの生まれ変わりとして紹介された男は、マジもののゼウスの生まれ変わりで、彼と話した主人公は心が救われる、というのがスピリチュアル雑誌の漫画であり、このネームが通るのがスピリチュアル系雑誌なのだ。

もしこの雑誌で教祖様溺愛漫画を描いたら、読者から苦情の代わりに生霊を100体ぐらい派遣されていただろう。

読者層を意識する、というのは大事なことであり、実際に「面白いけどモーニソグ向けではなかった。コ口コ口ならもっと続いていただろう」と評されるような漫画もある。

私は、少年漫画や少女漫画、そして地元から一切仕事を貰えない作家だが、実は某真剣なゼミで4コマ漫画を連載したことがある。

ちなみに真剣ゼミ中高年講座とかではなく、中学生用であり、数年前にも小学生向けに単発漫画を描いた。

少年誌や女児アニメを嗜んでいる中年は珍しくないが、これは正真正銘の少年少女向けであり、しかも学習教材内の漫画である。

当然レギュレーションはどこよりも厳しく「死」や「殺」など、不穏な言葉は文字すらNGだ。

挑戦はしなかったが、おそらく下ネタも、ウンコがギリギリだろう。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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