ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第137回

「ハクマン」第137回編集者の募集要項には
「要:コミュ力 捨:心」と
書かれている可能性がある

もちろん、俺たちは事務ができないのだから確定申告できなくて当たり前と開き直っているわけでない。

漫画家だって9割以上はちゃんと確定申告しているだろうし、残り1割だって確定申告という制度自体を知らないか、収入がなさ過ぎて申告の必要がないかであり、意図的な脱税などという高度なことができる奴はほとんどいないはずだ。

確定申告をしない奴の方が悪いのはわかっている。だがそもそも年の割に社会通念と事務能力に欠けるからフリーランスをやっている人間も多いのだ。そんなフリーランスの方が確定申告など会社員より煩雑な事務作業をする必要があるというバグは取り除いた方が、上記のような無邪気脱税が減って世のためなのではないだろうか。

しかし、私は今まで「漫画家は社会性に欠け事務作業が苦手な奴ばかり」と巨大主語で語ってきたが、実情はそんなことはなく、漫画家への偏見を助長させているだけではないかという不安があった。

それが今回のことで、億の収入があっても税理士に依頼することすら不可能なレベルで事務ができない漫画家が少なくとも1人は存在するとわかったことだけは収穫である。

それに漫画家に社会性と事務能力があったら、もっと「編集不要論」が出てくるはずである。

描いた漫画を流通させ利益を出すには、編集や事務、営業など漫画以外の様々な作業や知識が必要である。それを漫画家がやるのは時間的にも能力的にも厳しいから、間に出版社や編集を挟んでいるのだ。

昔に比べれば、編集を挟まずインディーズでやっている作家も増えているが、やはり今でも出版社を通して活動している作家の方が多いと思われる。

つまり、漫画家の欠けている部分を補うのが編集の仕事であり、場合によっては漫画以外全てのピースを埋めることにもなる。

つまり、編集者は少なくとも、社会性、事務能力、コミュ力を持っていなければならない。むしろこれを持っていない編集者は翼が折れて口が臭いエンジェルでしかなく、作家にとってそういう編集にあたってしまうのは「担当がついた」というより「クリーチャーに遭遇した」に等しい。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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