ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第137回

「ハクマン」第137回編集者の募集要項には
「要:コミュ力 捨:心」と
書かれている可能性がある

X上でケンカが絶えないのは自分と異なる考えを「自分への攻撃」と受け取り反撃しようとする人間が多いからではないか、という意見を見かけた。

おそらくこの意見にも「俺はそんなに狭量ではない」と殴りかかる人間が一定数いるだろうし、いくよ派と表明した瞬間くるよ派にスネを蹴られるのがXである。

私もこんな場所にいられるか、と戻った部屋でXをやっているような人間だ。自分のことを言われたわけでもないのに「俺のことか」と激怒し、顔真っ赤で反論するのは日常茶飯事である。

先日、某人気漫画の作画担当が脱税をした件の公判が開かれ、無事有罪となっていた。

作品の大ヒットにより、巨額の収入を得、それに係る莫大な税金を払うのが惜しくなって、意図的に税を脱そうとしたらな邪悪の極みであり、私の心の無期懲役ベストテン第1位がこんな感じになってブギーが今夜バックしてしまうところだが、そんな話でもないらしい。

詳しいことは不明だが、どうやら急に増えた収入の確定申告方法がよくわからなかったため「わからなことはやらない」という君子危うきに近寄らず戦法を数年取り続けてしまった結果らしい。

さすが中華風ファンタジーの作画をやっているだけあり、中国のことわざには精通しているようだ。

しかし残念なことに、今は古代中国ではなく令和日本だったため、脱税で起訴、罰金を取られて前科をもらうことになってしまったようである。

だが逆に古代中国だったら杖刑とかになっていたかもしれないので、ある意味金で済んで良かったとも言える。

こんな経緯だったため、裁判長の言葉は要約するに「いい年こいて社会制度への理解と事務能力がなさすぎな上に、それから目を逸らし続けた結果がこれだよ」と、まだ私利私欲を断罪された方がまだマシなレベルの辛辣さであった。

この判決理由は、私含む年の割に社会性に欠けるフリーランスに刺さってしまい、自分が裁かれたわけでもないのに「俺たちは本当に事務ができないんですよ」と謎の言い訳を始める怪現象が散見された。

つまり、私と完全に同種で発行部数の桁だけが違う人間が、持ち前の常識のなさから事件を起こし、まともな人たちに迷惑をかけ叱られるという、誠に嫌な事件であった。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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