ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第14回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第14回

「漫画というのは唯一、親の七光り、
コネ、ヤクザのいない世界だ」
風貌が完全にヤクザな編集長が教えてくれた。

何故なら私と会っても私が何を描いているのか一切聞いてこなかったのだ

おそらく一瞬で「コレジャナイ漫画家が来た」と察知したのだろう。
作品名を聞いたところで「知らない」という空気アイスバーン現象が起きるだけだと踏み、あえて聞かなかった可能性が高い。この時点で下手な大人より社会性がある。

実際、彼女は高校など無意味で、反対する大人は夢を机で削られた悲しきモンスター、などと強弁を振るうこともなく、むしろ「漫画家になりたい話」すらあまりしてこなかった。

さらに話を聞くと、不登校と言っても友達は普通にいるようで、今度嵐のコンサートに行く、とも言っていた。

どう見ても「おめー、俺が中学生の時よりマシじゃねえか」である。

そんな、思ったより全然深刻じゃなさそうなJCに対し、私が何を言ったかと言うと「将来のために高校は行った方がいいんじゃない?」だ。

おそらく、漫画家になるため高校を辞めた元JKが、ツイッターで何百万回と繰り返し言われたであろうご意見である。

JCも漫画家というより「botが来た」と思ったに違いない。

その後何を話したのかは、あまり覚えていないが、覚えていないということは「学校で経験を積んだ方が良い」など、誰の記憶にも残らない良くある助言をしたに違いない。

だがその後、何も言うことがなくなり「スーパー無言タイム」が訪れたことだけは覚えている。

社会スキルを持った大人なら、年長者として子どもに気を使い、何らか話題を繋げるのだろうが、私にはそれが出来ない。よっていつも通りの「無言」である。

そしてほぼ無言のまま別れたのだが、その後、夫づてにそのJCが高校に進学することにしたと聞かされた。

漫画家になる参考には全くならなかったが、私の姿を見て何かしら「思うところ」があったのかもしれない。

漫画家で大成するのに、学歴は関係ない。そして学校に行ったからと言って社会性が身につくというわけではない。

ただ漫画家になれなかった時、履歴書で面接官が「おっとこれは~?」となっちゃうということだけ、覚えておこう。

ハクマン

(つづく)
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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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