ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第37回
切り離せない。
連載の延命に成功する例もある。
ともかく終了判断を覆したければ数字を出すしかない。
だが終わろうとしている漫画に出版社が宣伝費を出すわけがない。
担当が味方につけばまだ良いが、それもダメな時はもはや作家個人で動くしかないのだ。
そこで登場するのがSNSなどのインターネットである。
平素からSNSで宣伝をしている作家は多いが「終わるかもしれない」という内情を暴露し「貴様らの応援次第ではワンチャンあります」と助命嘆願するのだ。
私がとったのはこの方法である。
ツイッターは、連日死体やウンコが流れて来るガンジス川だが「聖なる川」という側面もなくはないので、困っているから助けてくれというツイートは割とRT数が伸びるのである。
そこで一緒に漫画の試し読みなどが拡散されれば、そこで初めてこんな漫画があると知ってくれる人も現れる。
この方法は効果があるし、おそらく私の漫画の売り上げが回復したのもネットで拡散されたからだと思う。
しかし、この方法は諸刃の剣である。
ツイッターは聖なる側面もあるが、やはり伊達に連日ウンコは流していないので、窮状を訴えるつぶやきも、最初は「かわいそうだ応援しよう」という向きでも、拡散されすぎると「つまらんのだから終わって当然」という逆張りが現れる。
逆張りというか、それも一理あるご意見なのだが、そういうアンチ意見は段々「だってこの作者天パだぜ」といった、作品に関係ない人格攻撃に発展してしまう恐れがある。
そういう収拾がつかない事態になり連日誹謗中傷までされたら、正直漫画を描くような精神状態ではいられない。
漫画を続けるために取った行動で、さらに心を折られるというリスクがあるのだ。
また、ネットでのバズりが必ずしも数字に直結するとは限らないのだ。
ツイッター漫画が拡散され多くの人に読まれる一番の要因はやはり「タダ」だからである。
この「無料」と「有料」の間では今日もモーゼが微笑んでいる。
「無料で面白い漫画が読めて良かった」で終わってしまう人も多いので、バズれば売り上げが上がるというものでもない。
だが、実際SNSで火がついて売れるものもあるし、私のように連載の延命に成功する例もあるので、もはや漫画とSNSでの宣伝は切り離せないものになってきている。
逆に言えば「宣伝」さえ漫画家の仕事になってしまったのだ。
仕事で漫画を描き、宣伝のためにSNSで漫画を描かなければいけないのである。
そうしないと仮に漫画が面白くても「こういう漫画がある」ということを知ってもらえるところにすら到達できないのだ。
ただ、作家の負担が増えたと取るか、編集任せにせず作家が自分や作品を売り込めるようになり可能性が広がったと考えるかは捉え方次第である。