ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第66回
「ネームは無料」という文化は
変わっていない
「その間漫画家は無賃で大丈夫なのか?」というQには「ダメです」というAを返すほかない。
実家住まいや無収入期間を支えてくれる家族がいるならまだ良いのだが、そうでなければ貯蓄を切り崩すしかないし、切り崩すものがなければ、魔法のカードで「未来の自分のお金」を召喚するしかないし「バルス」に匹敵する滅びの呪文「リボ」が唱えられることもしばしばだ。
そして当然「命」を触媒にしてバイトと漫画を並行しているものも多い。
それらの負債は、連載がはじまってからの原稿料や印税で補てんする算段ではあるのだが、当然補てんされないまま連載が終わり、負債だけが残るということもある。
つまり「これからはじめる連載で取り返せる」方に金や時間を賭けるギャンブルであり、そういう意味で作家は「パチプロ」などと同カテゴリの職業に分類されるのだ。
むしろ職業でありながら、そんな高リスクのシステムが当然のようにまかり通っている方がおかしいのではないか、ということだ。
そう言うと「それを承知で漫画家になったんだろう」と言われるかもしれない。
もちろん「漫画家になんかなる方が悪い」と言われたら「そりゃ悪い」と全面的にこちらの過失を認めざるを得ないが「漫画のように己の好きなことを仕事にしようとしている奴が金の苦労で文句を言うのはおかしい」というのは間違っている。
100歩譲って作家本人が「ぼ、僕は大好きな絵が描ければそれだけで幸せなんだな」と言いながらセロテープののり部分を舐めて生活しているなら良い。
しかし、外野、まして金を払わなければいけない側が「大好きな絵が描けるんだから金なんてどうでもいいだろう」と言うのは違う。
確かに、漫画家やアーティストなどは、絵や音楽が好きだからその仕事についた人がほとんどだと思う。
しかし「好きなことができれば貧しくてもいいと思っている人」というわけではない。
むしろ「好きなことだけしてさらに金ももらいたい」という発想に至ったゲス野郎しかいないと思っていただいた方がいい。