ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第92回
仕方がない時に
仕方がないと諦めるのも
大事である。
真面目なのは良いが、仕方がない時に仕方がないと諦めるのも大事である。
仕方がない時でも無理してどうにかしてしまうから「出来るんだからやれ」という話になってしまうのだ。
「無理」がなければ成り立たないようなものはいつか破綻する。
無理をしないことこそが、最大のリスクヘッジなのだ。
以前まで、停電した際、冷蔵庫用の緊急電源を奪ってスマホなどを充電していたが今思えばどうかしていた。
緊急時、優先的に守るべきなのは、光る板ではなく、水や食糧に決まっている。
そんなわけで、台風14号で停電したら、無駄な策は弄さず、潔く寝ようと思っていた。
だが私のそんな潔さに14号も感服してしまったのか、14号の被害は幸い思ったほどではなく、停電はせず、屋根すら飛ぶこともなかった。
だが、編集者というのは、我が故郷がどこにあるかも知らぬような関東住みばかりである。
台風の被害が甚大であり、今他人の家の屋根が俺の上にいるため、仕事はできない、と言えば信じたかもしれない。
だがそもそも仕事をしたくないわけではない。
何故なら会社員であれば、台風で休みになってもその分給与は出るだろうし、せこい会社でも有給扱いだろうが、フリーランスは休んだ分だけ餓死である。
例え、台風で仕事ができなくなっても、そこまで嬉しくはない。
そんなわけで、いつも通り台風の中でも仕事をしようとしたのだが「異常に眠い」のである。
よってすぐに「台風眠い」で検索したところ、やはり台風による気圧の何かで眠くなることがある、という情報がヒットした。
このように、ネットというのは自分がそうであって欲しいという願望を入力すると、大体それを裏付けてくれるような言説が1個は見つかってしまうため「吐血 病院行かなくて良い」などでは絶対検索してはいけない。
つまりこの眠気も自然災害である。
自然災害に逆らって原稿を書くというのは、暴風雨の中、用水路を見に行くのと同じである。
自然に対し、我々ができることはその脅威が去るのをじっと待つことだけである。
ニュースキャスターも「命が助かる選択をしろ」と言っていた。
私はその忠告に従い、布団の中で自然の脅威が去るのを待つことにした。
(つづく)
次回更新予定日 2022-10-10