滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第3話 マネー・ア・ラ・モード①
裕福な育ちのイレーネが、「幸福は幻にすぎない」と言う。
誰にとっても悩ましい、第3話スタート!
が、庶民とはいえ、お父さんは不動産を各地に持った資産家でたくさんの不動産収入があり、通いの料理人と住み込みのメイドさんを雇い、病気になって寝たきりのお母さんや、イレーネが入院したときに専属の看護師さんを付き添わせる財力がある。
イレーネには3人の弟がいて、イレーネ同様、だれも働いていない。弟たちはそれぞれ父親から与えられたマンションや家に住んでいる。イレーネも、ローマだけでなく故郷にもマンションをまるまるビルごと与えられているのだけれど、実家の自分の部屋で寝起きしている。男兄弟の中の紅一点だから特別かわいがられて育ったのだろう、海側のバスルーム付きの一番いい部屋を与えられている。赤で統一されたその部屋はものがあふれていて、そういえば、ローマのマンションもものがあふれていて、中でも奥の部屋はまるで物置で、なんだかよくわからないのだけれど、わたしには平気でその部屋を見せたのに、弟の1人のエンリーコがローマに来たとき、前に立ちふさがって見せようとしなかった。そして、弟が帰ったあと、「あんなに散らかった部屋、恥ずかしくて見せられないもの」ともらした。キッチンのテーブルには、3年前だかから整理していると言う領収書の山があって、イレーネは、毎朝、朝ごはんを食べるたびに、「ああ、これ、処理しなきゃ」と言ってため息をついていた。
ワシントンに借りっぱなしでここ十数年帰っていないアパートもものがあふれているそうで、「いつか片付けなきゃならないんだけど」と言った。でも、この先、ワシントンに行く予定はしばらくはないから、片付けなんかできるわけがない。家賃を払い続けているお父さんは、「住んでもいないアパートは引き払いなさい」と言っているそうだ。もっともだと思うし、もうとっくに親の面倒を見ていい年齢なのに、親にまだスネかじりしているのは、イレーネには悪いが、ちょっとどうかなとも思う。でも、まあ、親がお金持ちなんだから、それも仕方ない、というか、自然もしくは当然なのかもしれない。何にしても、特別にかわいがられて育ったからか、イレーネは、何十枚も重ねたフトンの下にある小さなエンドウ豆にも気づくプリンセスのように繊細で、ほんの些細(ささい)なことに過剰に反応するということを知った。
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