BL(ボーイズラブ)は関係性の物語──BL研究家・マルコインタビュー

男性同士の恋愛関係を題材としたジャンル、BL(ボーイズラブ)。レビューをはじめ、関連書籍の監修をされているBL研究家、マルコさんにBL初心者におすすめしたい作品や人気ジャンルなどをお聞きしました。

男性同士の恋愛関係を題材としたジャンル、BL(ボーイズラブ)。BL原作アニメが地上波で放送される、芸能人がBL好きを公言するなど、年々注目を浴びるようになっていることから、「読んだことはないけれど、BLという言葉は知っている」という方も多いのではないでしょうか。

そこで今回、P+D MAGAZINE編集部は、BL作品のレビューをはじめ、BL関連書籍を監修されているBL研究家、マルコさんにインタビュー。BL初心者におすすめしたい作品や人気ジャンル、衝撃の作品や今後のヒット予想などをお聞きしました。

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【マルコ・プロフィール】
漫画やゲーム、映画にBLなど様々なジャンルの記事を取り扱う読み物サイト「カフェオレ・ライター」管理人。エンタメ、IT系のフリーライター/コラムニスト。

『腐女子あるある用語辞典』(エンターブレイン)への監修のほか、『はじめての人のためのBLガイド』(玄光社)、『このBLがやばい!』(宙出版)への寄稿など、BLに関する書籍にも多く携わっている。

個人サイト:カフェオレ・ライター

 

BLの帯は自分好みの作品を探る指標

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── マルコさんがBL作品を読むようになったきっかけをお聞かせください。

マルコさん(以下、マルコ):2001年からブログをやっていたのですが、ある日偶然、ネットでBL作品の帯を目にしたんです。それまで帯といえば「10万部達成!」や「○×先生絶賛!」のように、その作品を売り出す目的のものだと思っていたのですが、BLの帯はまったく違う。「たちあがれマグナム」なんて衝撃的なフレーズが書かれた帯を一目見て、「これはすごいな」、「普通の帯と何かが違うぞ」と衝撃を受けて興味を持ち始めました(笑)。

── それまでBLというジャンルについてはご存知だったのでしょうか?

マルコ:いえ、BLの存在さえも知りませんでした。そんな僕がBL作品の帯に興味を持った2005年くらいから、ブログでBL作品の帯を紹介するようになって。そうしたら今ほどBLが一般的には知られていなかった背景もあったのか、BLに関するお仕事をいただくことが増えたんです。

── マルコさんご自身も把握していなかったように、そこまでBLが一般的でなかったことに理由はあるのでしょうか?

マルコ:もともと書店のBLコーナーは規模が小さく、意識しなければ気づかないほど奥に配置されていることも珍しくなかったからだと思います。そんな女性にとって“聖地”のような場所に、男性の僕が安易に足を踏み入れることは失礼なのではないか、と最初は躊躇していました。でも、BL作品を紹介するお仕事をいただいてから「さすがに読んでいないのはどうなんだろう」と思って読んだところ、すごく面白くて、単に読まず嫌いだったと気付いたんです。

── 帯を紹介することをきっかけに作品にも触れるようになったとのことですが、BL作品における帯とはどのような存在なのでしょうか?

マルコ:BLは、タイトルや表紙だけで作品の雰囲気や内容すべてを把握することが難しいジャンルです。というのも、設定やキャラクター、舞台が作品ごとにさまざまで、細分化しているジャンルだからなのです。その作品が自分のツボにハマるものかどうか、読んでみて初めてわかることも多いんです。

帯は、作品の雰囲気や内容はもちろん、「自分にとって好みなのかそうでないか」を判断する、重要な材料です。特にBL作品の帯は作品の核となる部分を巧みなキャッチコピーでギュッと凝縮して表現しているため、作品の「旨味」が詰まっています。帯に惹かれるものがあれば、自分好みの作品だと判断してほぼ間違いないでしょう。

── 楽曲でいうところのサビのような、1番美味しいところが帯でわかるのですね!

マルコ:だからこそ、まずは帯を見ることをおすすめしています。帯はデザインやフォントひとつとっても、直球なエロが楽しめる作品なのか、清涼感が味わえる作品なのか判断できます。

── では、この“たちあがれマグナム”というフレーズも……。

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マルコ:こちらは『Dr.チェリー』(著:青山あると)という作品の帯なのですが、これは主人公の医者がインポである設定を踏まえたフレーズ。それを知ると、ちゃんと意味があってこの9文字であることがわかりますよね。一見するとただの衝撃的なフレーズですが、読んだ後にあらためて「そういうことだったのか!」と気づく。これはまさに、上質なミステリーの叙述トリックです。

── すでに帯で内容が提示されていたとは……。

マルコ:「上手いこと騙された!」と一本取られたような気持ちになりますよね。BLの帯にあるキャッチコピーは、ふと目にした人が手に取りたくなる魅力を持つほか、内容を上手い具合に紹介しています。まさに帯の真髄と言っていいでしょう。

 

キャラクターが見せるギャップがBLの魅力

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── BL作品の世界観を楽しむうえで、知っておきたい用語はありますか?

マルコ:BLを単純に楽しむだけなら、用語はそこまで知らなくても大丈夫です。最低限、相手をリードする側を「攻め」、その逆でリードされる側を「受け」と呼ぶことは押さえておくと良いかもしれません。

ただ、この攻めと受けも、作品によってはどこか消極的な「ヘタレ攻め」、高飛車でプライドが高い「女王受け」のように微妙なさじ加減が見られます。

── 受けと攻めもキャラクターの設定により細分化していくとなると、BLは本当に多岐にわたるジャンルなのですね。

マルコ:自分の好きな傾向を探すのも、BLを楽しむ方法のひとつです。もしも自分の好みの作品を特定の作者の方が描いていたのなら、それは双方のツボが合った奇跡のようなもの。そんな理由から、「この人の作品は全部買う!」という作家買いをする人はかなり多いですね。

── なるほど……、ちなみに、BL作品における王道の設定やシチュエーションはあるのでしょうか?

マルコ:定番であり人気ジャンルなのは、主に極道、リーマン、ヤンキーです。

基本的に、BLは主人公の立場や属性で描かれていく、関係性のドラマです。極道といってもふたりが極道同士であるケースや、どちらかが極道、またはかつては極道だったものの足を洗ったケースもあります。同様に、ヤンキーはヤンキー同士、ヤンキーと教師、ヤンキーと優等生などですね。そしてリーマンは会社を舞台にした作品で、上司と部下、同僚、惹かれあっていたが、実はライバル会社の社員だった……などといった関係のものです。このように、BLはどんな作品であっても、誰かと誰かの関係性の変化を楽しむ作品なのです。

── その他、BLならではの作品に見られる特徴はありますか?

マルコ:同じくBLの定番設定として「下克上」というものもありますが、これもまさに関係性を言い表した用語です。たとえば会社の上司と部下の場合、昼間は上司が上の立場であっても、夜になれば恋人関係となり、部下が主導権を握る……というギャップに萌えを感じる人もいます。

普段は人前で強ぶっているヤンキーが夜は受けだったり、クールなキャラが実は情熱的な攻めだったりと、意外な素顔が見えるのがBLにおける関係性の面白さです。それを作中で「こんな顔、見せるのはお前だけなんだからな」なんて一言で描かれていれば、グッとくる方も多いのではないでしょうか。

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── まさしく“ギャップ萌え”ですね。その他、人気の作品に見られる傾向はありますか?

マルコ:傾向というよりもジャンルになるのですが、「俺は冴えない普通なやつなのに、どうやらイケメンのあいつはそんな俺が好きらしい」といったような作品は「ブサイクもの」と呼ばれ、人気があります。とはいえ主人公は必ずしも文字通りのブサイクに描かれているわけではないのですが、「主人公のどんなところが、イケメンの相手の心をつかんだのか」、その理由をいかに描くのかが魅力のジャンルですね。

── 他のジャンルでは、あまり見られない傾向ですね。知れば知るほど、BLはなかなか奥深い世界だとわかります。

 

BL研究家による、初心者へのおすすめ作品と衝撃作品

── BL用語や人気ジャンルを踏まえたうえで、これまでBL作品を読んだことがない女性におすすめしたい作品をご紹介いただけますか?

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マルコ:まずはBL作品に触れたことのない人に『同級生』(著:中村明日美子)をおすすめしたいです。こちらは表紙からもうかがえるように、男子高校生同士の特別な関係が美しく描かれている作品です。

2016年にアニメーション映画が製作されているのですが、原作漫画の持つ空気感や世界観がすごく綺麗でした。もともと僕がBL作品を知ったのは、インパクトのある作品がきっかけだったこともあって、「こんなにしっとりした味わいの作品もあるんだ」とジャンルの多様さを知りました。

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そして『ひだまりが聴こえる』(著:文乃ゆき)は、BLを始めて読む方にも読みやすく、感動するため万人におすすめできる作品だと思います。難聴を患った大学生と、明るく元気で思ったことをすぐに口にする同級生が心を通わせる爽やかなヒューマンドラマで、現代の大学が舞台なこともあって身近に感じるかもしれません。

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また、同じく映像化されている『どうしても触れたくない』(著:ヨネダコウ)も、転勤をきっかけに別れを決意する展開など、サラリーマンならではの悲喜こもごもが描かれているために共感できる要素が多くあります。ベッドシーンはありますが、サラリーマンものなので職業漫画として面白く読めますよ。

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マルコ:個人的には、テレビ局を舞台にした『東京心中』(著:トウテムポール)もおすすめです。テレビ局で働く厳格な先輩ディレクターと新人ADを中心に描かれているのですが、テレビ局の内情がリアルに描かれているお仕事漫画をベースに、BLが楽しめます。

──── いずれも高校生、大学生、会社員と年代別に身近なキャラクターが登場する作品なので、感情移入して楽しめそうですね!では、逆にこれまでマルコさんが読んだ作品で、衝撃的だったものはありますか?

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マルコ:擬人化したバイクに迫られる、『ぞっこん〜ある日バイクに迫られて〜』(著:松雪奈々)は、「俺、あなたのバイクです。早くまたがってください」という帯もあってなかなか衝撃的でしたね。擬人化の作品はインパクトのある作品も珍しくないのですが、予想外の擬人化作品が出てくるとやはり驚きます。

── 他にはどのような擬人化が衝撃的でしたか。

マルコ:信号機ですね。BL以外でも戦艦や刀剣が擬人化された作品が人気なので、信号機そのものの擬人化はそこまで驚かないかもしれません。ただ、この作品で擬人化していたのは信号機の色なんです。

── それはものというよりも、概念に近いのでは……?

マルコ:意味を持たせられるものはBLとして成り立つのでしょう。BLは手を替え品を替え、キャラクターとしてあらゆるものに命を吹き込むことができる自由なジャンルだとあらためて気づかされました。

── そう考えると、今後また驚くような擬人化ものが登場しそうです。

マルコ:同じく『ちんつぶ』(著:大和名瀬)という作品の発想には、度肝を抜かれました。修学旅行で交通事故に遭った主人公が、意識不明のまま何故か友達の股間に意識が乗り移って復活、友人と奇妙な共同生活を送る物語です。まず、常人には思いつかない発想ですよね。

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── かなり衝撃的な作品ですね……。

マルコ:さらにいろいろな意味でぶっ飛んでいる作品といえば、『大きなバイブの舎の下で』(著:櫻井しゅしゅしゅ)も、なかなかでした。タイトルにもあるように大人のオモチャを作っている会社が舞台なのですが、主人公が取り扱っている商品を覚えるために、憧れの先輩から体を使った指導を受ける……、というとんでもない作品です。あるエピソードではライバル会社に新商品の企画を盗用されるんですよ。

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舞台や商品はさておき、ライバル会社との争いと聞くと、サラリーマンたちによる社会派ドラマをイメージするかもしれません。ただ、この作品ではライバル会社のバイブ倉庫に乗り込み、バイブ型爆弾で爆破しようとする。しかも、これから危険なことをしようとする主人公は、お守りとして先輩をかたどったバイブを持たされるという。BLの概念を越えて、気持ちがいいくらい、こちらの予想を裏切る意味では最高の作品ですね(笑)。

 

時代や流行とともに、BLはどう進化するか

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── マルコさんの思う、今後のBL作品に起こるブームについてお聞かせください。

マルコ:今年は、テレビドラマ『おっさんずラブ』が大ヒットしましたが、あのような世間的なムーブメントがBLの流行に何かしらの影響を与える可能性もゼロではないと思います。

── たしかに、『おっさんずラブ』は2018年の流行語大賞にもノミネートされたほど、大きなヒットとなりましたね。BL界にもやはり影響はあったのでしょうか。

マルコ:外的要因としてここまでのものはなかったので、BL作家の方々の間でも観ている人は多かったようです。ヒットをうけ、今後も似た作品は出てくると思います。

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また、最近はSNSでのバズをきっかけに作品が注目される傾向が強いように思います。実際に『天国 in the HELL』(著:虫歯)の作者の方が第1話をTwitterに掲載されて大きな話題を集めていましたが、それはメインとなるふたりの性格を行動やセリフだけで上手に描きつつ、「受け」の男の子が実はサキュバス(夢の中に現れて性交を行うとされる悪魔のこと)だった……、というジェットコースターのようなめまぐるしい展開に多くの人が惹かれたからでしょう。実際に僕も、内容が気になって購入しました。これだけ作品が次々出版されている状況では、いかに手にとってもらえるかが重要になってきます。これからBL作品を描こうとしている方は、数ページでいかに興味を持たせて拡散できるのかを意識していかなくてはならないかもしれません。

── 時代に合わせてBLもまた進化していくと。

マルコ:SNSは、すぐに読者のリアクションが返ってくるのも大きいです。また、電子書籍版は、スマホで気軽に読むこともできる。僕は、外でスマホを使って読むのと、家で書籍で読むのは読み方や感じ方が異なると思います。

ゲームも同じで、家にいるときに据え置きのゲーム機で遊ぶときは1日中やることもありますが、ソーシャルゲームは電車の一駅分で遊べる長さに設計されていますよね。BLも、読み方やデザインが読む状況によって最適化されていくのだと思います。

── 内容としては、どのような予想をされていますか?

マルコ:電子書籍で限定公開されている作品も増えており、そうした作品はこれまでよりも尖った内容にチャレンジしているものが増えています。紙と電子、それぞれの特性を生かした作品がこれからも生み出されていくのかもしれません。

<了>

初出:P+D MAGAZINE(2018/11/23)

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