滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第7話 カゲロウの口④
人生は、指の間からこぼれ落ちる砂みたいに、
サラサラと流れ落ちていく。
これからもっと年を取ると、もっと面倒くさくなって、もっと人生が硬直化して、とんでもなくつまらなくなっていくのだろうか。
「年を取っていいことなんかひとつもない」と実際に年を取ったミスター・アロンソンが言っていたことだし、周りを見てみても、年を取るのが楽しみになるような例は、ほとんど見当たらないし──。
時間は止めどなく過ぎていき、人生は、指の間からこぼれ落ちる砂みたいに、サラサラと流れ落ちていく。そして、気がついたときにはもう人生の後半に達している。いつから時はこんなに早く流れるようになったのだろう。朝起きたと思ったら、もう夜になっている。
時間は限られていることを知っているくせに、つい、時間を贅沢に使っている。ちょっと何かをネットで調べているうちに、気がつくと、いつの間にか、夜店のカメのすくい方を興味深く読んでいたり、秋田の田舎の料亭のおいしそうな料理を惚(ほ)れ惚(ぼ)れと眺めていたり。別にカメが欲しいわけでも、秋田に飛んで行けるわけでも、ないのに。机に向かっている時間の半分は、行きもしないカメすくいや秋田の料亭やなんかで費やしているから、朝起きたと思ったらもう夜になっているのだ。この調子なら、あっと言う間におばあさんになって、肩が凝るだの、耳が遠いだの、目が疲れるだの、いろいろ不具合になって、ミスター・アロンソンみたいに、毎日が辛くなるのかもしれない。時々、楽しく年を重ねていくということなんて、本当にできるのだろうか、と思う。
それにしても、ミスター・アロンソンは、ウルグアイに移ってからも、わたしは自由業で時間がたっぷりあるとでも思っているんだろう、本をインターネットで注文して送りつけては、「ウルグアイに送ってくれ」とメールをよこした。「一番街のウォルグリーンの入り口近くにあるプラスチックのカゴに盛ったキャンデーも箱に入れてくれ」とか、「Kマートのコットン100%のハンカチを1ダース入れてくれ」とか、頼まれたこともあった。