【クイズ】太宰治、谷崎潤一郎……あの文豪の大胆すぎる「口説き文句」を完成させろ!

太宰治、谷崎潤一郎、島崎藤村……。かつて、文豪と呼ばれた作家たちが恋する相手に贈った言葉は、パンチラインの宝庫です。今回はそんな文豪たちの選りすぐりの“口説き文句”をクイズ形式でご紹介します。

古今東西、文豪と呼ばれる小説家たちの言葉は、時にストレートに、時にひねりの効いた表現で、私たち読者の心を震わせてくれます。そんな彼らは、恋する相手のことを想って綴ったラブレターの中でも、超一流の“口説き文句”を連発しているのです。

今回は、そんな文豪たちによる実際の“口説き文句”をクイズ形式にしてみました。思わず赤面してしまうほど大胆な告白から、ちょっと笑ってしまうようなプロポーズまで、その言葉は実に多種多様。クイズの答えにどんなフレーズが当てはまるかを考えながら、小説家たちが恋する女性に向けて放ったパンチラインの数々をお楽しみください!

初級編【第1問】

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【問題】

次の文章は、文豪・太宰治が恋していた女性に送ったラブレターの一節です。

一ばんいいひととして、ひっそり命がけで生きてゐて下さい。

この言葉のあとには、手紙の最後を締めくくる4文字のフレーズがひっそりと綴られていました。果たしてその4文字とは?

A.アイスル(愛する)
B.シニタイ(死にたい)
C.コヒシイ(恋しい)

 

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答え:C.コヒシイ(恋しい)

 

【解説】

この手紙は、太宰治が終戦間もない1946年に、当時恋していた女性・太田静子に宛てて書いたラブレターです。ふたりが初めて出会ったのはこの手紙から5年ほど前。当時、太宰は『富嶽百景』や『走れメロス』といった短編作品を多数執筆するなど小説家としてのキャリアを順調に積み上げており、太田静子はその一読者でした。

太宰の短編、『道化の華』などに強い感銘を受けた静子はいつしか太宰に会いたいと思うようになり、「小説を書きたいのでご指導願いたい」という手紙を太宰に送ります。その返事を受けて太宰宅を訪問した静子。ふたりはすぐに恋に落ち、頻繁に逢引を重ねる仲となっていきます。

しかし、当時太宰には妻がおり、ふたりの関係は許されないものでした。太宰と静子はひっそり文通を重ね続け、その中で交わされた手紙のうちの1通が冒頭のラブレターだったのです。太宰は手紙の中で、戦後すぐに母を亡くした静子のことを気遣うとともに、なんともひねりの効いた表現で自分の思いを伝えています。

いつも思ってゐます。ナンテ、へんだけど、でも、いつも思ってゐました。正直に言はうと思ひます。おかあさんが無くなったさうで、お苦しい事と存じます。(中略)
恋愛でも仕様かと思って、或る人をひそかに思ってゐたら、十日ばかり経つうちに、ちっとも恋ひしくなくなって困りました。旅行の出来ないのは、いちばん困ります。僕はタバコを一万円ちかく買って、一文なしになりました。一ばんおいしいタバコを十個ばかりだけ、けふ、押入れの棚にかくしました。
一ばんいいひととして、ひっそり命がけで生きてゐて下さい。

最後の“コヒシイ”という4文字は、手紙の枠からはみ出すような箇所にひっそりと綴られていました。あまりにも太宰らしい、ロマンティックなラブレターだと感じる方も多いのではないでしょうか。

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中級編【第2問】

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【問題】

次の文章は、文芸評論家・劇作家の島村抱月が恋する女性に贈ったラブレターの一節。空欄に当てはまる言葉を考え、埋めてください。

○○して、〇〇して。
死ぬまで〇〇している気持になりたい。

 

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答え:セップン/接吻

 

【解説】

セップンして、セップンして。死ぬまで接吻している気持になりたい。まァちゃんへ、キッス キッス

この情熱的かつ浮かれすぎたフレーズは、文芸評論家や劇作家、小説家として活動し、新劇運動の先駆けとしても知られる島村抱月が1912年、女優の松井須磨子宛てに綴ったラブレターの中の一節です。

当時、島村抱月は坪内逍遥とともに立ち上げた文芸協会附属の演劇研究所で熱心に新劇運動を推し進めていました。抱月はやがて、妻子ある立場にもかかわらず、研究所の看板女優であった松井須磨子と恋仲になってしまいます。ふたりの関係は、抱月と須磨子との関係を怪しく思った抱月の妻が須磨子のあとをつけたことで明らかになりました。抱月の妻は、須磨子と逢引しようとした抱月を捕まえ、その場でふたりに謝罪をさせたといいます(河竹繁俊『逍遥、抱月、須磨子の悲劇』より)。

そんな事件の翌日、抱月の妻が発見したのが、前日に抱月がしたためた冒頭のラブレター。抱月と須磨子の関係は瞬く間に醜聞として広まり、翌年に抱月は文芸協会を辞め、須磨子は研究所を退所しました。抱月は同年、須磨子とともに劇団を結成し、その興行の成功が新劇の大衆化に大きく貢献することとなります。


【中級編】第3問

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【問題】

次の文章は、妻と死別後、長らく独身を貫いていた詩人の島崎藤村が再婚相手に綴った手紙の中のフレーズです。文章の空欄に当てはまる言葉を考え、埋めてください。

わたしたちの〇〇〇〇を一つにするといふことに心から御賛成下さるでせうか。それともこのまゝの友情を―唯このまゝ続けたいと御考へでせうか

 

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答え:Life

 

【解説】

答えを目にしたとき、「いや、なぜ英語で?」と思った方も多いのでは。この手紙は、『若菜集』『夜明け前』などの代表作がある詩人・小説家の島崎藤村が1924年、恋していた女性・加藤静子に宛てて送ったラブレターです。

藤村は1910年に妻を亡くして以来、長らく独身を貫いていました。しかし、自身が発行した婦人文芸誌『処女地』に参加していた静子と恋に落ち、プロポーズをするに至ったのです。手紙の中の

わたしたちのLifeを一つにするといふことに心から御賛成下さるでせうか。

というやや独特すぎるフレーズからは、藤村が2度目の結婚に並々ならぬ情熱を注いでいたことが見てとれます。静子の決意が固まるまでは4年もの歳月がかかりましたが、1928年に静子から結婚したいという旨の手紙を受けとった藤村は、その喜びをこんな手紙に記しました。

Strange existance! 実に無造作にこんなお便りを書く日の来たといふことすら私には不思儀なくらゐです

「いや、だからなぜ英語で?」と再び聞きたくなってしまうような言い回しですが、藤村の嬉しさが素直に伝わってくる手紙であることは間違いありません。


【上級編】第4問

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【問題】

次の文章は、文豪・谷崎潤一郎が恋する女性に贈ったラブレターの一節。空欄に当てはまる言葉を考えて埋めてください。

私に取りましては〇〇のためのあなた様ではなく、あなた様のための〇〇でございます

 

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答え:藝術(芸術)

 

【解説】

このフレーズは、文豪・谷崎潤一郎が1932年、長年恋い慕っていた女性・根津松子に宛てて書いたラブレターの中の一節です。実はこのとき、谷崎潤一郎にも松子にも他に配偶者がおり、言うなればふたりはダブル不倫の状態でした。

松子の配偶者であった清太郎は根津商店という大阪の綿布問屋の御曹司でしたが、根津商店は1932年に世界恐慌の余波を受けて倒産。もともと谷崎夫妻に別荘などを提供するといった形で両家は交流をしていましたが、この倒産を機に転居せざるを得なくなった松子のあとを谷崎が追うような形で、根津夫妻と谷崎は隣同士の家に住むようになります

この頃には、もはや周囲の人々にも松子への好意を隠さなくなっていたという谷崎。妻・丁未子とみこにも自分の松子への思いを打ち明けて説得し、離婚への意志を固めていました。そんな中で松子に送った手紙が、このラブレターだったのです。

今後あなた様の御蔭にて私の藝術の境地はきつと豊富になることゝ存じます、たとひ離れてをりましてもあなた様のことさへ思つてをりましたらそれで私には無限の創作力が湧いて参ります
しかし誤解を遊ばしては困ります 私に取りましては藝術のためのあなた様ではなく、あなた様のための藝術でございます
──千葉俊二 編『谷崎潤一郎の恋文』より

松子は谷崎の目指す藝術のために存在するのではなく、むしろ藝術が松子のために存在するのだ──。そんな文面からもわかるとおり、谷崎は当時、松子を自分の作品の完成のためには欠かせない女性として崇拝していました。『盲目物語』や『春琴抄』といった谷崎の作品は松子をモデルに書かれたことが明らかになっており、その思いの深さを垣間見ることができるような手紙です。


おわりに

文豪たちによる最強の“口説き文句”の数々、お楽しみいただけたでしょうか? 不倫中に“キッス キッス”と情熱的すぎる思いをしたためてしまった島村抱月、“あなた様のための藝術”と相手への崇拝を隠さなかった谷崎潤一郎の手紙などからは、恋がいかに人を暴走させるものであるかがありありと伝わってきます。

数々の名フレーズを生み出した文豪たちの作品は、言うまでもなく、それ以上のパンチラインの宝庫です。今回ご紹介したラブレターをきっかけに気になった文豪がいたら、ぜひ彼らの小説や詩歌にも手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。

初出:P+D MAGAZINE(2020/03/14)

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