スピリチュアル探偵 第10回
探偵史上、忘れられない体験とは?
今だからわかる初老コンビの凄さとは!?
ちなみに、父方の祖父が70代前半の若さで、「わりと早く」亡くなったのは事実です。僕が健康なのも、まあ当たりでしょう。現にこのカウンセリングから15年以上経った今も、歯医者以外の病院にかかったことはありません。「いろんな人が助けてくれる」というのも異論はなく、今もこうしてフリーランスでやれているのは間違いなく周囲のおかげです。
ただ、正直に言えばこれらの助言のどれもが、さほど切れ味のいいものには感じられず、なんとなく当たっている気はするものの、「こんなものか」と少々期待はずれに思えたのも事実。
このほかにも角刈り先生は「お母さんを大切にしておやりなさい」とか、「何事も思い立ったが吉日だよ」などと当たり障りのないことをおっしゃっていましたが、この日はおおよそ、そんなところでカウンセリングを終えました。後日、Tさんに「どうだった?」と聞かれた際には、「うーん、まあ貴重な経験でした」と歯切れ悪く答えたことを覚えています。
ところが──。うちの親父が莫大な借金をこさえていることが判明したのは、それから2~3年経った頃でした。
恥ずべき我が家の乱ですから詳細は伏せたいところですが、先物取引やら何やらに手を出していた父は、人知れず借金を膨らませていたのです。なまじキャリアのある人だったので借金能力の高さが仇となり、それはそれは、けっこうな額の借金を抱えていました(家族はドン引き)。
ここ数年は母にバレないようにゴニョゴニョやっていたようですが、いよいよ「もうダメだ! マイホームを売らねばならん!」となった段階で家族に白状するに至ったわけですが、まあビックリしましたよね。なにしろ結果を見れば、あの時に初老コンビの言っていたことは見事に的中ということになるのですから。
惜しまれて消えたコンビ打ち霊能者
結局このあと、両親は熟年離婚することになり、僕自身も父とはすっかり没交渉。こうなると、「両親を」ではなくあえて「お母さんを大切に」と言われたのも、なにやら意味深く思えてきます。
おそらく、不思議な力を持っているのは角刈り先生ではなく、"じゃないほう"の無口な先生でしょう。このお家騒動の後、僕は日常生活の至る所で、あの初老コンビに会いに行く口実を探すようになりました。ちょっとした悩みや迷いに直面するたびに、「そうだ、あの2人に聞いてみよう」と反射的に頭をよぎるのです。
ただ、これこそがTさんの言う「何も自分で決められなくなっちゃう」状態なのだと気づくまでに、さほど時間はかかりませんでした。
いくら本物っぽいとはいえ、こういうハマり方はよくありません。そう自戒した僕は、引き続き霊能者めぐりを続ける上で、3つのルールを決めました(※第6回参照)。とくに「本当に悩んでいる時は霊能者に会いに行かないこと」というのは、この体験が元になっています。
その後、僕自身が離婚を経験した際、ゴタゴタが片付いて平穏を取り戻した段階で、「心機一転、今こそあの初老コンビに今後のことを視てもらおう」と考えたことがありました。ところが、どうしても連絡先が見つかりません。あるべきはずの場所にメモがなく、頼みの綱のTさんもすでに退職して久しく、音信不通の状態です。
そうやってグズグズしているうちに、風の噂でお2人が廃業したと聞きました。どうやら、角刈り先生がお亡くなりになられたようです。こんなことなら四の五の言わず、「思い立ったが吉日だよ」という角刈り先生の言葉に従い、すぐにでも再訪するべきだったのかもしれません。
いつかまたこういう体験ができればいいな──。僕はそう願って、本物の霊能者を求めて今も東奔西走しているのです。
友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。