スピリチュアル探偵 第19回

スピリチュアル探偵 第14回
スピリチュアル探偵の新境地!
ヒーリング・クッキングに挑戦。

いざ実食! ……の前にマダムからひとこと

ひと通りヒーリングフードの説明が終わったところで、ようやくレッスン開始です。2人1組になり、先生の指導に従って食材の下ごしらえから始めます。僕は当然、A子さんとのカップリング。

よその料理教室がどんな雰囲気なのか知りませんが、いざレッスンが始まると、他の4人の女性の口数が途端に増えました。それぞれ和気あいあいとしゃべりながら、食材を刻んだり、鍋を火にかけたりしています。

正直に明かせば、この時どんな料理を作ったのか、僕はほとんど覚えていません。言われるまま、半ば自動操縦のように手を動かしていただけで、食材を切ったりする作業は、料理に慣れたA子さん任せでした。

つまり、何をやらされているのかわからないまま、気がつけば調理を終えていた印象しかありません。食材も基本的にはそのへんのスーパーで買えそうなものばかりに見えました。もっとも、野原に生えている雑草と欧州産ハーブが僕に見分けられるのか、極めて怪しいところですが……。

なお、この1時間ほどの調理中、マダムの口からスピリチュアルな発言が一切なかったのはちょっと拍子抜け。ここだけ切り取れば、ごくごく健全な料理教室に見えることでしょう。

マダムが再び本領を発揮し始めたのは、仕上がった料理をみんなでいただくお食事タイムに突入してからでした。「いただきまーす!」と一斉に食べ始めるのかと思いきや、ここでマダムはとんでもないことを言い出したのです。

「じゃあ、◯◯さん(端に座っていた女性)から順に、目をつぶって胸に手をあて、ひとつひとつの食材とシンクロしてね」

これには思わず「えー!」と声を出してしまいました。リピーター以外の4人も、さすがに戸惑いの表情を浮かべています。

「えーじゃないの。ヒーリングフードはこれがとっても大事なんだから」
「でも、シンクロというのはどうやれば……」
「だから言ってるじゃない。目をつぶって胸に手をあてるの。そして目の前の食材に意識を集中させて!」

最初に指名された◯◯さんはリピーターなので、さして戸惑った様子もなく、言われたポーズで沈黙しています。……というか、この人よくリピートしたな。

せめて一斉にやればいいのに、なぜか順に一人ずつ、それもたっぷり2~3分かけてこれをやるので(※あくまで体感時間)、料理が冷めてしまいそうで気が気ではない僕。なまじ美味そうな匂いがしているので、ハンパないお預け感です。

しかし、毒を食らわば皿まで。ヒーリングフードを食らうには、この珍妙な儀式は不可避の様子。ここは耐えるしかありません。

お土産はヒーリングお菓子でした

どうにかこうにか儀式をやり過ごし、ようやくありついた料理は、普通に絶品だったことだけ覚えています。

食事中、マダムはメニューひとつひとつを解説しながら、合間にスピリチュアルな話題を差し込んできました。「◯◯さん、前回よりオーラが明るいわね。何かいいことあったんじゃない」とか(オーラって明度があるの?)、「□□さんは疲労性のゆらぎが見えるわ。今日の料理は回復にぴったりだと思うわよ」など(ドラクエの薬草かよ!)、一人ひとりに霊能者っぽいことを言っています。

しかし僕はといえば、男が1人だけ混じっている異物感のなせるわざか、「どう? やってみると意外とお料理も楽しいでしょう?」と、単なるおばちゃんモード。

「先生、僕にももっとこう、オーラがどうみたいなやつがほしいんですけど」
「あなたは明るいから大丈夫よ。男だし、細かいこと気にしないの」

同じ料金を払っているのに、なんたる差別。ハブんちょにされている僕を見て、隣りでA子さんがクスクスと笑っています。

まあ、しかし。我ながら場違いなのは否定できません。ここはもっと料理好き&占い好きな人が集まる場なのでしょう。野郎なうえに疑り深い僕のような人種は、マダムにとって本来、招かれざる客であるはず。

そんなマダムは食事後、僕たち一人ひとりにプチギフトをくれました。中身はヨーロッパのお菓子だそうで、「自然の食材をそのまま生かしてるヒーリングお菓子」なのだとか。

さらに帰りがけ、僕が同伴したA子さんを呼び止めて、こんなことを言い出しました。

「あなた、気の流れが良くないわねえ。ずっと気になっていたのよ。疲れているでしょ」

出ました。「疲れているでしょ」は、たいていの社会人に当てはまる魔法の言葉。案の定、A子さんも「そうなんです、最近残業が多くて」などと応じています。

その素直なリアクションから〝イケるくち〟と判断したのでしょう。マダムはここで大胆にも直接、ヒーリング行為を始めました。

「じゃあ、ちょっとだけ後ろを向いて。そして少しうつむき加減で、やわらかく目をつむっていてね」

されるがままのA子さんの首筋に、マダムは指を2本そろえてあてがい、スッスッスッと何往復か撫でました。

「うん、これで大丈夫。少し気が流れだすと思うわ」
「え、すごい。そんなこともできるんですね」
「あとは今日の献立を意識した食事を、できる範囲で続けてみて。心身の芯から少しずつ癒やされていくはずよ」
「ありがとうございます」

やっぱり素直なA子さんのリアクション。マダムにとってはこれほど可愛い客はいないでしょう。

帰り道、A子さんに「最後のあの変な儀式、どうだったの?」と聞いてみると、わりと肯定的にこんな答えが返ってきました。

「それが、ちょっと不思議な感覚だったの。指がキンと冷えていて、なんだか心地よかった。これがヒーリングかあと、ちょっと感心しちゃった」

いや、それ単なる冷え性だろ! 僕はそんな言葉を必死に飲み込みながら、「こんなに影響を受けやすい人だったのか……」と、A子さんの意外な一面を噛み締めつつ帰路についたのでした。

なお、自炊に目覚めつつある昨今ではありますが、あのときに習った欧州料理にチャレンジしたことは一度もありません。

(つづく)

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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