スピリチュアル探偵 第4回

スピリチュアル探偵 第4回
日本人なら一度は体験したい、
イタコの口寄せ!
探偵は東北に向かった。


イタコを介して亡き祖父母にコンタクト!

 秋田市内で車を調達し、南下する形で90分ほど走って到着したのは、海に近い鄙びた住宅街。指定された住所にたどり着くと、庭先で洗濯物を取り込んでいるエプロン姿の女性の姿が見えました。

 道路脇に車を停めて来意を告げると、まさしくその女性こそがイタコご本人。年の頃は60歳前後といったところでしょうか。彼女は「ちょっとだけお待ちくださいね」と、残りの洗濯物を竿から手早く引っこ抜くと、それを抱えて家の中へ入っていきました。

 見た感じは普通の主婦で、いかにも生活感たっぷり。ついにとてつもない本物に会えるのではないかと緊張していた僕としては、やや拍子抜けする思いでした。

 そして屋内に招き入れられ、通された和室でしばし待機。やはり、仏壇が置かれたごく普通のお部屋です。

 ほどなく登場したイタコさんは、とくに仰々しい装束に着替えるわけでもなく、エプロン姿のまま「お待たせしました」と僕の正面に腰を下ろしました。なんだか親戚のおばちゃんに会いに来たような気分になります。

 さて、いつもであれば仕事や健康面について訊ねるわけですが、今回は口寄せが目的。仲介者の方から事前に、「話をしたいご先祖様の名前と生年月日、命日をしたためてくるように」と伝えられていました。

 そこで僕は父方と母方、それぞれの祖父母のパーソナルデータを紙にプリントして持参。イタコさんは老眼鏡をかけると、そこに記された4人の情報をまじまじと眺め、「うん」とひとつ頷くと、「ちょっとお待ちくださいね」といったん部屋を出ていきました。

 ものの数分で戻ってきたイタコさんの手には、水の入った木桶が握られています。

「まず、どの方からお話を聞きたいですか」

「ええと……、では父方の祖母からお願いしてもいいでしょうか」

 するとイタコさんは仏壇に向かって手を合わせ、念仏なのか真言なのか、何やら呪文のような言葉を唱え始めました。

亡きおばあちゃんとの劇的な再会!?

 何しろこちらは口寄せ初体験ですから、このひとときというのはけっこう緊迫感があります。仏壇に向かって拝んでいるイタコさんが、いつ僕の祖母になりきってこちらを振り返るのかと、内心ドキドキしっぱなし。

 すると、おもむろに念仏を止めてこちらを振り返ったイタコさん。

「では、仏壇の前に正座して、右の桶の中の水を柄杓で2杯、左の器に移してください」

 イタコさんはまだイタコさんのまま。僕はわけもわからず言われた通りに柄杓を手に取ります。そして木桶の隣に並べられた洗面器のような器に、たどたどしく水をすくって2杯注ぎました。

「心の中でおばあちゃんの生前の姿をよくイメージしながらやると尚いいです」

 この儀式にどんな意味があるのかわかりませんが、イタコさんはこの間、僕の後ろで念仏らしき何かをブツブツと唱え続けています。

 部屋が薄暗かったこともあり、ちょっと不気味なムードが漂っていますが、大のおばあちゃん子だった僕としては、もし祖母と再会できるなら実に胸アツな展開。神妙な気持ちでイタコさんの念仏が終わるのを待ちました。

「さて、おばあちゃんに聞きたいことはなんですか?」
「まず、祖母が亡くなってからこの15年、そちらから僕たち家族を見ていて、どう思っているかを聞いてみたいです」

 イタコさんは「わかりました」と頷くと、再び仏壇に向かって何やら拝み始めます。そして。

「概ね、皆さん元気にやっているようで安心しているようですね。そして哲さん(僕のことです)に関しては、もう少しまめに実家に顔を見せてやってほしい、とも」

 ……あれ? 見たところ、まだイタコさんのままですが、もう口寄せは始まっているのでしょうか。とりあえず乗ってみるしかありません。

「そうですか。では、僕の仕事面について、何か助言をもらうことはできますか。祖母は読書家だったので、僕が今こうして本を書く仕事をしているのをどう思っているのか、ずっと気になってたんです」

 すると、また少し拝んでから……。

「小さな頃からよく本を読んでいる姿を見守っていた立場として、嬉しく思っているようですよ。とても応援してくれています」

 ……うーん。思ってたのと、なんか違う。

「そうだ。祖父は祖母よりだいぶ前に亡くなっているのですが、そっちで会えたのでしょうか?」
「(やっぱり少し拝んでから)ええ、そうですね。仲良くやっているそうです」

 ……なんでしょうか、このプロレスじみたやり取りは。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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