辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第22回「世界が優しくなった」
優しさ溢れ出る世界。
身体はヘトヘトだけれど。
子育てをしていると、もはや何でもかんでも楽しく思えてくる。大人1人では何も起こらなかったはずのところに、小さな事件が起き、人との関わりあいが生まれ、気を抜いた瞬間に笑わされたり、心が温まったりする。子ども1人でも十分楽しいのに、2人いるとその頻度は2倍だ。
この間も、夜に2歳と1歳の子ども2人が寝ている部屋をふと覗いてみたら、なぜか娘しか見当たらなかった。慌てて暗闇に目を凝らし、注意深く息子の姿を探すと、娘の枕になっていた。……ええ、文字どおりの意味で。
おい娘、いくらあったかくて小さくて柔らかいからって弟を都合よく扱いすぎだろ。息子も息子だ、8kgが13kgにのしかかられて絶対に重いだろうになぜそのままスヤスヤ寝ている──などと心の中でツッコミを入れながら爆睡中の2人を引き離した。そんなひとときも、今の生活の醍醐味である。
子どもたちの体重に触れたついでに思い出したのだけれど、今から半年以上前、浪人生の従弟に当時6kgほどだった息子を抱っこしてもらったとき、目を丸くされてしまった。
「え、なに、赤ちゃんってこんなに重いの? 腕にくる……。お母さんってすごっ」
当時2歳娘が優に10kgを超えていたため、6kgなんて軽い軽いと思いつつ過ごしていた。でも言われてみれば、お米の袋と同じような重さなわけで、それを始終片手で抱っこしながら日々を送っていると思うと、私の左腕ってすごいんじゃなかろうか。しかも最近は8kgを抱っこすると、13kgが嫉妬の炎を燃やしてもれなくおんぶをねだってくる。お腹と背中、ある意味両手に花だが、実に合計21kg。外出時はベビーカーと抱っこ紐を駆使するとはいえ、母親というのは(家庭によっては父親も)、そんな2人を連れてドラッグストアに走り、まとめ買いすると30%オフになるおむつを両手に2パックずつ買ってきたりするわけだ。第1子が生まれる直前と今とで体力テストの結果を比較してみたかった。記録を取っておかなかったのがとても残念である。
子どもが生まれてからというもの、身体を酷使し続けているのは事実だ。
だけど、筋肉が増えるにしたがって、自分の周りの世界がどんどん優しくなっていると思えば、悪くない。
データサイエンティストの夫に話したら呆れられかねない杜撰な結論を導き出したところで、今回のエッセイの結びとしたいと思う。
(つづく)
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「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。最新刊は『二重らせんのスイッチ』。