辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第20回「29歳母の試練」
ウイルス感染で入院!?
次々と思わぬ試練が。
2022年10月×日
編集者さんに連載原稿を提出するときは、前月の原稿ファイルを開いて「名前を付けて保存」し、その際に連載回数の数字を書き換えることにしている。今回は驚いた。このエッセイ、本日で20回目なのだという。20か月。思えば遠くへ来たもんだ。
そんな記念すべき20回目の原稿、いつも以上に緩く楽しく適当なテンションで子どもたちのことを書き綴りたいところ、だったのだけれど。
こんなときに限って、心が乗り切らない状況に陥ってしまった。
発端は今から2週間近く前、生後10か月の息子が突然40度の熱を出したことだった。
今のご時世、まずはコロナを疑う。しかし8月に家族4人とも感染したばかりだったため、おそらく違うだろうと判断した。一晩冷却ジェル枕を使って様子を見ると、翌朝、熱は38度前後まで下がった。病院に連れていったほうがいいかどうか悩んだけれど、コロナを含め様々なウイルスが同時流行している今、小児科はどこもパンク状態で、発熱外来を予約するのに熾烈な競争をかいくぐらなければならない。どれくらい熾烈かというと、朝7時にインターネット上で当日の予約受付が始まり、瞬く間に枠がすべて埋まるくらい。目立つ症状は発熱だけだったため、これくらいの症状でかかるのは他の患者さんにも迷惑だろうと考え、自宅で看病しながら回復を待とうと決めた。
しかしなんだかおかしい。熱がなかなか下がらず、また39度まで上がってしまった。鼻水と咳も増えてきている。ちょうど三連休に入ってかかりつけ医が休診中というタイミングも悪かった。心配しながら自宅で看病を続けていたのだけれど、あるとき何気なく抱っこをすると、息子の呼吸が速くなっていることに気がついた。
胸に耳を当てると、ゼーゼーと音も聞こえる。ただ、喘鳴に関しては以前にも小児科で指摘されたことがあり、0歳の間は音が鳴りやすい子もいるから自然に治るだろうと医師に言われていたため、判断をためらった。これは、かかりつけ医が開く翌朝まで様子見して大丈夫な状態なのだろうか。
インターネットでひたすら調べたところ、呼吸困難の兆候である「陥没呼吸」と、通常の状態の呼吸とを比較している、医療従事者向けの勉強動画が出てきた。陥没呼吸というのが、息を吸うときにみぞおちや鎖骨の上、肋骨の間などがへこむ状態のことだという説明は他のサイトにも書いてあったけれど、息子の肌着を脱がせて胸を見ていても、へこんでいるような気はするものの確信が持てなかった。そんな中、実際に乳児の胸を映した動画が見つかったのは非常に助かった。
「やっぱり動画と一緒で、肋骨の間やみぞおちがへこんでるよ。一緒に見てくれる?」と夫にもダブルチェックしてもらい、休日や夜間の急患対応をしている市の診療所に連れていった。そこは本格的な検査ができる病院というわけではなく、かかりつけ医が開くまでの間に必要な薬を出す役割を担っているようだった。その夜と翌朝分の薬をもらい、帰宅した。
そこからはあっという間だった。翌朝7時0分0秒になった瞬間にスマートフォンを高速操作し、発熱外来の予約を勝ち取る。指定された午後の時間にかかりつけ医で診察を受けた結果、コロナと並んで乳幼児の間で流行しているRSウイルスへの感染が判明する。酸素の値が昨日より低くなっていて、本人もぐったりし始めているため入院を検討しましょうと告げられる。夫に娘を任せ、夕方に紹介状を持って大きな病院に移動。診察や検査を受けつつ救急外来で2時間ほど待った結果、1週間前後の入院が正式決定。
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「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。最新刊は『二重らせんのスイッチ』。