辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第24回「子どもと色、色と性差」

辻堂ホームズ子育て事件簿
娘と息子、性別が違うと
好きな色も違う?
令和の子育ては悩ましい。

 そんな信号機だけれど、このあいだ街を歩いていたら、お散歩中の保育園生同士の可愛らしい言い合いが耳に飛び込んできた。

「あ、しんごうがみどりになったよー!」

「えー、あおでしょ?」

「みどりだよー」

「あおだよ!」

 微笑ましくて、くすっとしながら脇を通り過ぎた。そういえば娘も、当初は信号の色を「みどり」と言っていて、「青信号」という私の言葉に少々混乱している様子だった。古来、日本には緑という色の概念はなく、青に含まれていたんだよ。ほら、今でも「若葉が青々と繁る」「隣の芝は青い」なんていうでしょう──そんな説明を、いつかしてあげたいものだ。歴史を感じるこうした日本語の機微、私はけっこう好きである。

 色といえば、3か月ほど前にぎょっとしたことがあった。我が家のリビングの片隅には子ども用の小さなテーブルが設置してあるのだけれど、当時0歳だった息子はその上にどんどんおもちゃをのっけてしまう。積み木やら、ブロックやら、おままごと用の野菜やら、小さなボールやら。テーブルは娘がお絵かきをする場所だから、おもちゃはマットの上でお願いしたいんだけどな──などと思いつつ、雑多に集められたそれらを片付けようと、テーブルに近づいたところで、はたと気がついた。

 おままごとのきゅうり。ピーマン。洋梨。黄緑の積み木とボール。緑のブロック。0歳の息子の手でテーブルの上に集められたものは、一つ残らず緑で統一されていたのである。

 ハイハイしかできない乳児がそんなことをするなんて思わないから、法則に気づいた瞬間はびっくりしてしまった。確かに息子は、10色のカラフルボールを目の前に並べると決まって黄緑のボールを手に取っていたし、普段気がつくとおままごと用のきゅうりの片割れをペロペロ舐めていたりもしたのだけれど、まさか色という共通点があったとは。

 ちなみに娘が同じ月齢の頃は、水色のボールばかり選んでいた。ちょっと調べたところ、赤ちゃんが生物学上好むのは暗い色より明るい色、寒色系より暖色系、最も好まれるのは黄色ということだから、やはり青や緑が好きというのはうちの子たちの好みなのだろう。同じおもちゃで遊んで育ったはずなのに、早い段階から個人差が出るのはなんだか不思議だ。色の好みというのは先天的に決まっているものなのだろうか。

 3歳になった娘が今一番好きな色は、おそらくピンクだ。本人が明確に宣言しているわけではないのだけれど、髪ゴムを選ばせるとピンクを選ぶ確率が高いし、塗り絵をしても小さい女の子の上着や靴はピンクに塗って、それを自分だと言い張る。でもこれは私が仕向けたようなものだ。私自身が弟2人を持つ姉で、物心ついてからは弟たちに回せるような色合いの服を与えられることが多かった経験から、娘には女の子らしい服を着せてあげたいという意識が働き、気がつくと服や靴の色がピンク多めになっていた。「男の子らしく」「女の子らしく」というジェンダーの概念が淘汰されつつある現代に生きる親として、もう少しバランスのいい環境を整えてあげたほうがいいのかもしれないなと反省している。


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。最新刊は『二重らせんのスイッチ』。

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