辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第25回「山びこがきこえる」
鏡のように振る舞う子どもたち。
もしかしてその口調も?
保育園にも、家での生活状況がダダ漏れだ。先日はおままごと用のキッチンセットの前に立ち、おもちゃのコップを使って「コーヒーを10杯も淹れていた」らしい。「ジュースじゃないの?」と先生がいくら尋ねても、コーヒーだと言い張ったのだとか。それは私たち夫婦が2人そろって、自宅でインスタントコーヒーばかり一日に何杯も飲みまくっているせいだ(この原稿を書く傍ら、今も飲んでいる)。ちなみに友人の子どもは、おままごとで「ビールでーす」とコップを差し出してくるという。
親の知らないところで、保育園の先生たちにはさぞいろいろなことを察せられているのだろうと思うと、顔から火が出そうになる。そうか、自分が幼い頃に母親にいくら年齢を訊いてもはぐらかされていたのは、幼稚園の先生やママ友の目を気にしていたのだな……などと今さら実感したりも。確かに、声かけの内容といい何気ない仕草といい、普段の私を完コピしながら着せ替え人形のお世話をしている娘を見ていると、「わたしはママです。30さいです。おなまえは、つじどうゆめでーす」などと外で言いふらしかねない。というか、当然言いふらすだろう。私も安易に自分の個人情報を教えるのはやめておこう、と今この原稿を書きながら固く決意した。
子どもは外で、親の姿を映し出す鏡のように振る舞っている。でもそれは外だけでなくて、私たち親に対しても同じだ。
最近、娘が発する言葉に驚かされることが増えた。私が焦っていて椅子やドアにぶつかると「だいじょうぶですか? いたくない?」。牛乳を注ごうとすると「きをつけて、こぼさないでね」。髪を結んであげると元気よく「ありがとう、ママ!」。こちらの膝に無理やり上ってくるときは「ごめんね、ちょっといい?」。眼鏡をかけると「ママ、にあってるよ」。息子が隣室で長々とお昼寝をしているときに「まだ起きてこないのかなぁ」と私が何気なく呟いたときなどは、「●●くん、かえってくるから、もうだいじょうぶだよ」と突然慰められた。
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「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『答えは市役所3階に』。