◉話題作、読んで観る?◉ 第61回「銀河鉄道の父」

◉話題作、読んで観る?◉ 第61回「銀河鉄道の父」
監督=成島出|脚本=坂口理子|音楽=海田庄吾|主題歌=いきものがかり「STAR」|出演=役所広司/菅田将暉/森七菜/豊田裕大/坂井真紀/田中泯|配給=キノフィルムズ
5月5日(金・祝)より全国公開
映画オフィシャルサイト

 宮沢賢治は親泣かせのドラ息子だった!? 童話作家・宮沢賢治の37年間の生涯を、父親の視点から描いた門井慶喜の直木賞受賞作の映画化。『八日目の蝉』『いのちの停車場』の成島出監督が、役所広司、菅田将暉、森七菜ら人気キャストを起用し、ペーソス溢れるホームドラマにしている。

 岩手県花巻で質屋を営む裕福な宮沢家で、賢治(菅田将暉)は長男として大切に育てられた。中学を卒業した賢治は、家業を継ぐことを嫌う。人工宝石を製造・販売する怪しいビジネスを考えたり、日蓮宗に傾倒したりと、父・政次郎(役所広司)は賢治の言動に頭を悩ませる。父と賢治のケンカを仲裁するのは、しっかり者の妹・トシ(森七菜)の役割だった。

 東京に出た賢治は、日蓮系の宗教団体・国柱会の活動に参加するようになる。そんな折、トシが病に倒れたという電報が届く。当時は不治の病だった肺結核だった。賢治は帰郷したい気持ちを抑え、猛烈な勢いで原稿を書き始める。トシを励ますために、創作に打ち込む賢治だった。24歳で夭折したトシの生命と引き換えに、賢治は『風の又三郎』や『永訣の朝』を完成させる。

 自分探しに迷走する賢治に対し、厳しい言葉も浴びせる政次郎だったが、トシが亡くなった後は、不遇の作家・宮沢賢治の最大の理解者となる。明治・大正時代にこんなにも子煩悩な父親がいたのかと思ってしまうが、幼い頃に赤痢に罹った賢治を付きっきりで政次郎が看病した逸話などは史実に基づいたもの。時代を問わない普遍的な父子像に、涙腺が緩んでしまう。

 前半は自由奔放な賢治に一家がさんざん振り回されるコメディタッチの展開だが、中盤以降は日常生活の中に死の匂いが漂うことに。トシや賢治が死の床に就くシーンはシリアスさを極めるものの、成島監督の演出は俳優たちの活気ある演気をうまく引き出している。成島監督自身が難治性のがんを患い、がん病棟で闘病した体験を持つ。死と笑いが背中合わせになった独自の境地だと言えるだろう。

 トシも賢治も全力で生き、そんな子どもたちを政次郎も全力で受け止めた。人間の幸福を測る尺度は、寿命の長さではないようだ。

原作はコレ☟

銀河鉄道の父

『銀河鉄道の父』
門井慶喜/著
講談社文庫

(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2023年5月号掲載〉

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