辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第33回「ぶびなちゃん」
「あたらしいおともだち」とは一体?
母の推理が始まる。
「ぶびなちゃんね、あさがおぐみから、きてくれたの!」
ちょっと待て。隣のクラスからやってきた?
じゃあ転校生じゃないじゃん──と、今度は急に人間の女の子である可能性が低くなる。複数のクラスでおもちゃをローテーションしていて、新しいぬいぐるみが回ってきたとか? もしくはハムスターか何かの小動物のケージを、順番に回しているとか? いや、もしかすると、人間の大人という可能性はないだろうか。「せんせい」という敬称をつけていないことからして、正規の先生ではないのだろうけれど、例えば絵本の読み聞かせボランティアとか、芋掘りのお手伝いをしてくれる農家の方とか、そういう外部のスタッフさんが、隣のクラスを経由してやってきた可能性はないか?
もう少し、変化球を投げ続けてみる。
「ぶびなちゃんは、●●ちゃんと同じクマさんのバス?」
「ちがーう! さくらちゃんとおんなじ、ライオンさんのばすだよ!」
なんと。
ここにきて、人間の子どもの線でほぼ確定である。さくらちゃんというのは実在するクラスメートで、普段からライオンのイラストつきの通園バスに乗っている。彼女と同じというからには、「ぶびなちゃん」は園児のひとりとしてバスコースに振り分けられているのだろう。だってさすがに、動物やおもちゃを通園バスには乗せないだろうし、バスの運転手や添乗員の先生が園児にニックネームで呼ばれているとも考えにくいし……。となると、クラス替え? ひとりだけ? 11月という中途半端な時期に? 隣のあさがお組に馴染めなかったとか、よほど特別な事情があったのだろうか、と心配になってしまう。
私にあれこれ訊かれて楽しくなったのか、娘は淀みなく語りだす。
「ぶびなちゃんと、きゅうしょく、たべたよ! みずたまのふくろ、●●ちゃんといっしょだったよ!」
給食のスプーンなどを入れる袋が自分と同じ模様だった、と言いたいらしい。娘の給食袋はどこからどう見ても動物柄なのだけれど、なぜ水玉模様だと思い込んだのかは謎だ。
「ぶびなちゃんは誰のお隣に座ってるの?」
「そうまくんのおとなり!」
ダメ押しで尋ねると、すぐに答えが返ってきた。きちんとクラスメートの男の子の名前が出てくるあたり、「ぶびなちゃん」がたんぽぽ組に新しく入ってきた人間の女の子であることはやはり間違いないようだ。
園バス通園のため、私が直接担任の先生に会う機会はめったにない。クラスメートがひとり増えたのだとしたら、次のクラスだよりに掲載されるだろう。11月号はまだかな。あまりにも要領を得なくて気持ちが悪い。早く真相を知りたい──。
小学館
東京創元社
\毎月1日更新!/
「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『山ぎは少し明かりて』。