椹野道流の英国つれづれ 第13回

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◆イギリスで、3組めの祖父母に出会う話 ♯13

「さて、私の秘密は明かしたわ」

スッキリした顔で再びティーカップを手にしたジーンは、新しいビスケットを一枚取り、また紅茶に浸しながら、私を見ました。

「次はあなたのことを聞きたいわね。さっき、学校でと言っていたから、あなたも英語学校に通っているの? どこの学校? ブライトン? ホーブ?」

そういえば、電話ではKとの関係を説明するのが精いっぱいで、私自身の立ち位置を語るのをすっかり忘れていたのです。

私は慌てて、自分は約1年の予定でブライトンの語学学校に滞在することを伝えました。

海沿いの、長らくホテルとして使われていた古い建物を改装した、小さいけれどとても居心地のいい学校だと。

軽く首を傾げて耳を傾けていたジーンは、ニコッとして言いました。

「ああ、その語学学校のことは、私も聞いたことがあるわ。評判は悪くないわよ」

悪くない……〝not bad〟という言い回しは、イギリスではとても一般的でした。直訳すると「悪くない」、つまり「まあ、受け入れられる程度」というニュアンスに捉えがちですが、実際はこれ、「とってもいい」という意味合いなのです。

どストレートに褒めちぎらず、ちょっと斜に構えてクールに評価する。それが彼らのスタイルなのでしょうか。

実のところはわかりませんが、あまりにもよく聞くので、すぐに留学生の脳にも染みついて、気づけば当たり前のように使うようになる表現の1つです。

「安心したわ。それだけ英語が話せたら、ホストファミリーともコミュニケーションは取れるでしょうし。あなたはジャパニーズガールにしてはよく喋るから、ホストファミリーも楽しいでしょう」

そう言われて、私は照れながらも首を横に振りました。


「椹野道流の英国つれづれ」アーカイヴ

椹野道流(ふしの・みちる)

兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。

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