著者の窓 第20回 ◈ 鈴木エイト『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』

著者の窓 第20回 ◈ 鈴木エイト『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』

 今、日本中が注視している統一教会と政治の問題。この教団を二十年にわたって取材してきたジャーナリスト・鈴木エイトさんの著書『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館)には、これまで知られてこなかった自民党と統一教会の関係が詳細に明かされています。第二次安倍政権下、自民党が教団に近づいたのはなぜか? 安倍元首相暗殺事件の背景となった問題について、鈴木さんにうかがいました。


「コンビニ感覚」で教団と付き合う政治家たち

──『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』は衝撃的な本でした。そもそも鈴木さんが統一教会と政治の問題を追いかけるようになったのは、二〇一三年に行われた参院選がきっかけだったそうですね。

 僕は二〇〇二年から統一教会による偽装勧誘の取材を始めて、当初はブログなどに記事を書いていたんですが、二〇〇九年にニュースサイト「やや日刊カルト新聞」に加わって、カルトについて各媒体に寄稿するようになったんです。その過程で二〇一一年に行われた統一地方選挙で、統一教会がある無名の女性候補者を擁立し、当選させてしまったという情報をキャッチしました。ところがその地方議員は取材に対し、「統一教会なんてまったく知りません」としらを切って、支援者を切り捨てたんですね。それを見聞きして、カルトの人権侵害も問題だけど、そういう団体を利用する政治家も悪いなと。その後、二〇一三年の参院選で統一教会と首相官邸が裏取引をしているという証拠を入手し、本格的に政治と宗教の問題を追いかけるようになりました。

──自民党が統一教会と急接近したのは、二〇一二年に発足した第二次安倍政権以降。それまで一定の距離を置いていた安倍元首相がなぜ「変節」したのか、という謎が本の冒頭で提示されています。

 もともと安倍晋三さんと統一教会は、男女共同参画やジェンダーフリーに反対するという立場から、思想的に共鳴するところがありました。といっても多数ある宗教右派のひとつという扱いであって、日本会議などに比べるとそこまで密接な関係だったわけではありません。小泉政権時代、官房長官だった安倍さんは天宙平和連合(UPF、統一教会のフロント組織)のイベントに祝電を送っていますが、マスコミ報道を受けて事務所が勝手に送ったんだと弁明していますからね。公に付き合ってはいけない団体という認識はあったと思うんです。
 しかし第一次安倍政権がああいう形で短命に終わり、民主党に政権を奪われることになった安倍さんには、次こそは長期安定政権を目指したいという切実な思いがあった。それで教団の接近を許してしまったのではないでしょうか。祖父の岸信介、父親の安倍晋太郎の代から連綿と続く教団との蜜月関係、と捉えがちなんですけどそれは実態とは異なっていて、安倍晋三さんの代でワンクッションあったと見るべきでしょうね。

鈴木エイトさん

──それが政権与党に接近して利益を得たいという、教団側の思惑とマッチしたわけですね。

 そうです。統一教会は反共思想で共鳴する政治家と関わりを持つということを、岸信介さんの頃からずっとやってきたわけですけど、東西冷戦終結後の一九九〇年代から二〇〇〇年代あたりは、そこまでがっちり政界に食い込むということはしていなかったんです。しかしその結果、二〇〇七年から二〇〇九年にかけて教団が霊感商法で相次いで摘発を受け、政治家対策をちゃんとやらないとダメだと。そこに第二次安倍政権が成立し、教団もあらためて政界にコミットするようになります。

──安倍元首相じきじきの参院選の後援依頼や、教団イベントへの国会議員の出席、教団の名称変更記念式典への国会議員の祝電。鈴木さんの取材によって、自民党と統一教会の関わりが次々と暴かれていきます。読んでいて暗澹たる気持ちになってきますが……、そこまでして政治家は教団の協力を得たいものなんでしょうか。

 統一教会の信者は約十万人といわれていますから、票田としては大したことないですね。それよりは選挙運動でのマンパワーを重宝がられてきたのかなと。政治家としても当然、霊感商法などで問題のある組織だということは分かっているわけですけど、ちょっと便宜供与すれば選挙の時に応援してもらえるし、関係が発覚してもマスコミはあまり騒がない。そういう便利な組織として自民党に重宝されていた、ということだと思います。言葉はあれですけど、コンビニ感覚というか。だから「不気味なカルト団体が政治家を裏で操っていた」という見立ては違っていて、安倍さんにとっても教団と協力関係にあるという意識は最後までなかったと思う。

一般の方が思うほどストイックな人間じゃないんです(笑)

──二〇一六年に学生中心団体SEALDsに対抗して結成された保守派の大学生組織UNITE(現・勝共UNITE)。その実態が統一教会の二世信者であることが判明するくだりもスリリングでした。若い信者が安倍政権のためにこうした活動をしていたという事実には驚かされます。

 宗教二世といえば両親にネグレクトや虐待を受け、人生を破壊された子供たちの問題がクローズアップされますし、まずそこを第一に取り上げるべきだと僕も思うんですが、従順な二世信者たちもまた教団や政治家に利用されている、という側面にも目を向けてほしいですよね。本には書かなかったですけど、勝共連合の憲法改正のイベントには、「勝共女子」という若い女性信者が出てきて、応援団みたいに勇ましい歌を合唱するんですよ。反共主義が盛り上がった昭和の頃から、まったく変わっていない。彼女たちは純粋だし、余計なお世話だと言うでしょうが、その異様さは伝えていかないといけないと思います。

鈴木エイトさん

──直撃取材を試みる鈴木さんに対し、「エイトが来るかもしれない」というメールを回して、遊説場所を変更などするUNITE側。生々しい取材の模様には、小説のような面白さも感じました。

 そういう側面に注目してもらえるのは嬉しいですね。この本が特殊なのは、僕の存在が取材対象に影響を与えているところだと思います。僕が取材に向かうと「エイトが出没しました」というメールが回って、集合場所が変更になる。そういうプロレス的な流れを楽しんでもらえる本にもなっていると思います。

──政治家への取材では警察を呼ばれたり、脅迫的な言葉を吐かれたりと大変な目にもかなり遭われていますね。恐怖を感じて、取材を止めようと思ったことはありませんか。

 それはまったくありませんね。僕は自分を嫌っている人に取材するのが大好きで、「嫌なやつが来た」と言われるとわくわくするんですよ(笑)。取材対象として、その方が面白いと感じるのかもしれませんね。警察を呼ばれたらいい画が撮れてラッキー、と内心ガッツポーズしていますし、一般の方が思うほどストイックな人間じゃないんですよ。先日見ず知らずの方から「あなた、偉いわね」と声をかけられましたけど、「そこまで持ち上げられる人間じゃないんだけど」と申し訳なくなりました。
 取材をしていて教団や政治家に憤りを感じることは多々あるんですけど、自分の正義感を振りかざすことはしないように心がけています。偽装勧誘にしても政治家と教団の関わりにしても、「あなたたちは間違っていますよ」と主張したことは一度もなくて、やるならそれを公言したうえでやってください、という言い方しかしていません。統一教会と関わりを持つなら堂々と持って、有権者にその判断を委ねるべきです。

問題をスルーしてきたマスコミの罪

──自民党議員と教団の深い繋がりについて鈴木さんが再三報じてきたにもかかわらず、この十年間、大手マスコミはその事実を無視してきました。教団の選挙協力についても、国会議員の教団集会への参加についても、ほとんど報じられていません。これはなぜでしょうか。

 首相官邸が圧力をかけていた面もありますが、それ以前に自主規制によるところが大きいのかなと。ここを扱うとクレームが入って面倒くさいぞという団体は避けて、できるだけ穏便に済まそうという流れが出来上がってしまっていた。そんな流れの中で、僕も書ける場所が少なくなったり、怪文書を撒かれたりしました。そうした教団側のメディアコントロールに、ずるずると乗っかってきたのがこの十数年だったと思います。安倍元首相の暗殺事件を受けて、メディアに関わっている人、特に報道現場にいる人たちの間でスクープ合戦が起きていますが、背後には教団の圧力に屈してしまったことへの反省があるのだと思います。「報道特集」(TBSテレビ)にしても「情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系列)にしてもスタッフの熱意はすごいですから。健全なジャーナリズムのあり方だなと感じますね。

鈴木エイトさん

──長年無視されてきた問題が明るみに出たのは、安倍元首相の射殺事件以降でした。この事件は安倍元首相がUPFの集会にビデオメッセージを送ったことが引き金とされていますが、鈴木さんにとってもあのビデオは驚きでしたか。

 それまでも安倍さんと統一教会の関係については内部資料を手に入れていたんですが、安倍さんからすればまだ言い逃れのできる間柄でした。ところがあの映像が出てきたことで、両者の関係が完全に裏付けられてしまった。もう隠さないんだ、という衝撃は大きかったですね。映像は当日限りの公開だったので、多少世間の目から隠そうという意図はあったんでしょうが、あの瞬間だけでも関係をおおっぴらにしたのは驚きでした。でもその衝撃が伝わったのは一部メディアで、多くのメディアは重大性に気付いていなかった。安倍さんにしてもこれまでの経験から、報じられても政治生命には大して影響がないとたかをくくっていたんでしょう。その結果、命を落とすことになったのは皮肉な結果だと思います。

──ここ最近の報道を見ていても、自民党は統一教会との関係をなかなか断ち切ることができないようです。与野党に対して鈴木さんが望んでいることはありますか。

 本来なら岸田首相が統一教会問題に全力で取り組むべきですし、またそれができる立場にいるとも思います。低迷する支持率を上げるチャンスですよ。誤解のないように言っておきますと、僕は決して自民党憎しで取材を続けているわけではないんです。教団に関与している議員が圧倒的に多いので自民党を追っているだけで。自分自身は党派性を持たないようにしているんですよ。

これからどこに目を向けるべきか

──巻末におかれた「旧統一教会関連団体と関係があった現職国会議員168人」のリストを見るだけでも、いかに鈴木さんがこの問題に時間と労力を費やしてきたかが分かります。しかも鈴木さんは独自取材で得た情報を、惜しげもなくテレビや雑誌に提供されていますよね。

 僕みたいな野良ジャーナリストが独占するようなネタじゃありませんから。全メディアで扱ってほしいと思って、情報はできるだけ提供するようにしています。大手メディアの調査力はすごいですからね。僕と各メディアの集めてきた情報がパズルのピースになって、大きな絵が浮かび上がればいいと思っています。

鈴木エイトさん

──おっしゃるとおり、自民党の統一教会汚染については日々新事実が明らかになっています。いわゆる宗教二世問題もクローズアップされてきました。今後、この問題はどう展開していくとお考えですか。

 統一教会が悪質であることは言うまでもありませんが、その悪質さに乗じて、教団に便宜を与え、民主主義をねじ曲げてきた政治家が、「自分は騙されただけ。そんな集団だとは知らなかった」と逃げ切ろうとしている。そこはきっちり追い詰めるべきだと思います。
 統一教会の信者について「好きで入信して、喜んで献金しているんだからいいじゃないか」という人もいますが、カルト問題の複雑さを理解していない発言です。テレビで記者会見している教団の信者にしても、そもそもは偽装勧誘を受けて入信した、ある種の被害者でもある。今、さまざまな立場で葛藤している二世の人々ももちろん被害者です。僕はジャーナリストとして極力客観性を持とうと思っているんですが、安倍元首相の事件後、二世の人たちについてメディアで語っていると思わず涙ぐんでしまうことがあって……。冷静になるまで少し時間がかかりました。こうした人々の背後にあるマインドコントロールの構造を、一般に理解してもらうのが次の段階かなと思っています。
 それにしても、隔世の感がありますよね。以前はどこのメディアもカルト問題を取り上げようとはしなかったですから。当然、しばらく経つと統一教会報道も下火になるとは思いますが、これを一過性のもので終わらせず、苦しんでいる人たちの存在に目を向けてほしい。僕もこんな形で名前が売れてしまいましたが(笑)、これまでどおり統一教会を追い続けると思います。
 ところで僕がネットに書いた記事はよく「ふざけすぎている」と言われるんですが、カルト問題は世間に関心を持ってもらえないので、あえて面白おかしく書いていた面もあります。そんな僕の記事をあるカルトの脱会者の方が読んで、「初めてカルトを笑うことができた」と感想をくれたことがありました。そうした意外な効用もあるようなので、読み物としての面白さも忘れずに入れていきたいですし、今回の本も結果的にはそうなったかな、と思っています。


自民党の統一教会汚染 追跡3000日

『自民党の統一教会汚染  追跡3000日』
鈴木エイト/著
小学館

鈴木エイト
滋賀県生まれ。日本大学卒業。2009年創刊のニュースサイト「やや日刊カルト新聞」で副代表、主筆を歴任。2011年よりジャーナリスト活動を始め、様々な媒体に寄稿。宗教と政治というテーマのほかにカルトや宗教の二世問題、反ワクチン問題を取材しトークイベントの主催も行う。

(インタビュー/朝宮運河 写真/松田麻樹)
「本の窓」2022年11月号掲載〉

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