小谷野敦著『反米という病 なんとなく、リベラル』のココが面白い!鈴木洋史が解説!
知識溢れる著者により繰り広げられるタブーなき論客批判の書。ココが面白い、というポイントを、ノンフィクションライターの鈴木洋史が解説します!
【書闘倶楽部 この本はココが面白い①】
評者/鈴木洋史(ノンフィクションライター)
タブーなき
論客批判の書
『反米という病
なんとなく、リベラル』
小谷野敦著
飛鳥新社
本体1500円+税
小谷野敦(こやの・あつし)
1962年茨城県生まれ。作家、比較文学者。東京大学大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了。近著に『宗教に関心がなければいけないのか』(ちくま新書)、主な著書に『聖母のいない国』(河出文庫、サントリー学芸賞)』など。
文化功労者に選ばれた井上ひさし氏が天皇主催の茶会に出席し、島田雅彦氏が皇室語録を編纂したように、護憲派リベラルでありながら天皇を礼賛する立場を、著者は〈なんとなく、リベラル〉、略して〈なんリベ〉と呼ぶ。逆に、梅原猛氏や山折哲雄氏のように、保守の側から九条支持を表明するケースも目立つ。「なんとなく」という形容には、護憲を主張する立憲主義者であることと、天皇制という身分制を認めることは本来矛盾しているではないかという批判が込められている。ちなみに著者は、改憲派で、天皇制反対である。
そして、「護憲」と「天皇制容認」を結び付けているのが「反米」だとして、明治以降今に至るまでの知識人の反米の系譜を辿る。著者によれば、近年、知識人の間で反米感情が急速に高まったのはイラク戦争がきっかけで、その〈情緒的な反米気分は、あたかも往年の「鬼畜米英」を思わせ、危険を感じざるを得ない〉と批判する。
著者は独自の立場から右と左のあらゆる論客を俎上に載せ、論争を要求する。そこにタブーも遠慮もないのだが、自らのルサンチマン的感情を隠さないのも著者らしい。たとえば、20代後半にカナダの大学に留学したとき、教員と論争してボロボロに叩かれ、夜になるとひどい孤独感に苛まれ、全裸の上からコートを羽織って外へ飛び出したこともあったと打ち明ける。また、岩波新書から自著を出しそこなったことがあるが、自分のなかにも「岩波文化人」「朝日文化人」になりたいという名誉欲や権威主義がある、と本音を漏らす。
内容に賛同するかどうかはともかく、論壇の内幕めいたエピソードも多数ちりばめられ、読んで飽きない。
(SAPIO 2016年6月号より)
初出:P+D MAGAZINE(2016/05/17)