【座談会】異なる世代のファンが「松本清張」を語る

骨太のミステリーで知られる松本清張。「昭和の顔」とも言える彼の作品を昭和生まれと平成生まれのファン3人が語りつくします。

昭和を代表するミステリー作家である松本清張。重厚な雰囲気を持つ松本清張の作品は今でも人気があり、度々映像化もされています。

そこで今回は、都内某所において松本清張を愛してやまないファン3人による座談会を開催しました。

参加者は、29年もの間書店員として働き続け(2016年4月に退職)、小学生の頃から本が大好きな堀越さん、インターネットの音楽レーベル「Naimachi Record」を運営し、Twitter(@aonooo)でも多くの支持を得ている青野くん、そしてP+D文学講座の講師でもお馴染みの加勢 けん先生の3人です。

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20代、30代、40代と世代が異なる3人がそれぞれ感じている松本清張の魅力をはじめ、昭和・平成の比較から見えてくるものなど、非常に興味深い座談会となりました。その模様をお届けします!

 

僕は/私は、こうして松本清張と出会った!

堀越さん:私は小学校3、4年生くらいの頃に、集英社文庫のSFファンタジーを読んで、本を好きになりました。そしてある日、松本清張の「鬼畜」がドラマ化されたのを観まして。それがものすごく怖くて衝撃だったんですけど、原作を買ってきて読んだ父親に「面白いから他の作品も読んでみろよ」と勧められて。それから松本清張を読み始めました。

青野くん:僕が最初に文学を意識したのは、国語の教科書に梶井基次郎の「檸檬」が載っていたことがきっかけですね。それまではあまり読書をしていなかったんですけど、「檸檬」に衝撃を受けて。それから梶井の作品をきっかけに仲良くなった人が坂口安吾も好きで、その人の影響から僕も安吾が好きになりました。そして安吾が芥川賞の審査をやっていた時に松本清張の作品を推して受賞に至ったと知って。それで安吾が推していた「或る「小倉日記」伝」を読みました。

堀越:今どき清張に安吾だなんて、なかなかセンスがいい20代ね〜。

加勢 犬:(笑)松本清張の作品を初めて読んだ時、どのようなところにガツンときましたか?

堀越:分かりやすくて深いところですね。難しく書いてて深い人はたくさんいますけど、簡単に書いてこんなに人を深く書ける人もあんまりいないんじゃないかって。人って駄目なものだし、駄目なところはたくさんあるじゃないですか。そこをさらっと書くという。「ああ、そういうところあるよね」とこちらも思えるように書いてくれる

犬:乱歩が耽美的な文体で人間のどろっとした部分をエログロナンセンスとして描く作家だとすれば、松本清張は平易な文章で人間の駄目な部分を描いていたと言えますね。

堀越:もちろん乱歩の書く文章も美しいですけどね。松本清張は「そうそう、いるよね」だとか「自分も、もしかしたらこのようになるかもしれない」っていう感じの人を書くのが上手なんです。

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青野:僕は『点と線』が好きなんですけど、この作品には「小説よりも時刻表を見ている方が楽しい」っていう女性が登場するんです。「時刻表を見れば旅をする気分が味わえるから」という理由で。その時刻表ミステリーを読む僕たちも、色々な地名が出てくるので、ミステリーを読んでいるのに旅をしている気持ちになるんですよ。

犬:今青野くんが言ったことにからめて、そもそもイギリスで近代ミステリーが成立した時代のことを語ると、鉄道によって時間の感覚がより近代的なものになったことに繋がりますこの時間にこの場所で鉄道に乗った人は、その後何時間後にあの場所にいると。人の移動と時間がかなり明確に、時計に管理されるようになるんです。新しい時間の感覚が出てくると、今度はアリバイというものが生まれてくる。こういうところでまさに電車とミステリーはすごく関係が深いものとなっています。『点と線』なんかはタイトルもまさにそれを表していますよね。

僕は、松本清張は電車の中で読むのが最適であると思っているのですが、これはホームズの時代からあるミステリーの特徴です。1話完結の短編ミステリーは、電車の中で読むのにちょうどぴったりなボリュームということで、駅のキオスクなどで売られるようになったんですね。ここでも電車との関係性が出てきます。

堀越:松本清張は時刻表ミステリーの先駆けだとも思います。

 

犯人の動機から溢れ出す人間性。清張作品の普遍的テーマ

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青野:僕が松本清張を好きな理由として、他のミステリーと比べて犯人の動機を丁寧に描いているっていう点があります。ミステリーというものはオチが重要ですよね。でも松本清張のミステリーは動機が丁寧に描かれているため、人間味が凄く出ているんですよ。先程、堀越さんが仰ったように、人間の駄目なところが描かれているんです。

犬:トリックをその1回限りで消費するミステリーとは違って、また読み返したくなる。あの感じが良いですね。

堀越:そうなんですよ。そういう人なんですよ、松本清張は!(笑)分かっていて殺される女とか、なんとかしてやろうとする刑事の執念だとか。でもやっぱり駄目だったというような、起承転結で綺麗に終わらないものも結構あって。

犬:松本清張は実際の社会的な事件を扱っていたりもしますよね。結構社会的なことを描いていても、人間味とか人間の感情というものを重要視して描いているから、タブロイド的になることがないというか、センセーショナリズムに陥ることがない

青野:人間の感情は100年後でも200年後でも、いくら経っても変わらないものなので、そういった意味で松本清張の作品には普遍性が凄くあるように思いますね。

堀越:本当にそういうことを書いている人なんですよ!

 

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犬:ちなみに他の作家で、「もしかしたらこの人は松本清張に近いのではないか」と思う人はいますか?

堀越:吉村昭も実話を元に書いていたりするんですけど、この人も人の内面を描いているところでは似ている気がしますね。社会派的な文脈で人間のことを書いているという。

青野:全く違うジャンルにはなりますが、坂口安吾とかも結構、時代のこととかを取り扱っていたりして、人間の内面についても深く掘り下げています。安吾と松本清張は全く違うジャンルではありますけれど、通ずるものがあるからこそ、安吾は清張を推していたようにも思います。

犬:松本清張といえばミステリーのイメージがありますが、安吾は『不連続殺人事件』などでミステリーも題材にしていますよね。

青野:確かに松本清張といえばミステリーという人も多いですが、その他にも社会的なテーマを単独で取り扱ったもの、作家論など本当に様々な作品を書いています。安吾も同様に様々なものを書いているんですよ。様々な題材を吸収して作品に落とし込んでいる点で共鳴するものがあったんじゃないかと思いますね。僕が好きな「或る「小倉日記」伝」というのは、森鴎外が軍医として3年間、小倉に行ってた時の日記を題材に、それを青年が探そうとするという物語です。

犬:小倉に左遷された鴎外へのシンパシーもそうですが、「上の連中」と「俺たち」という構図は結構ありますね。松本清張には社会の中の支配層、エスタブリッシュメントというか、権威のようなものに対して反抗する姿勢があったんだと思います。昭和の頃の、マンパワーの時代の空気感というか、社会運動を起こすことに対して人がまだ諦めきっていなかった、しらけムードが無かった時代のしぶとい雑草魂みたいなものを感じますね。

堀越:山崎豊子もそんな感じですね。庶民としては読むと「頑張れ!」という気持ちになります。松本清張の作品では「張り込み」とか、刑事ものを読むと特に。でも悪いことをしてしまった人の弱さも描いていて……っていうところが良いんだと思います。人の気持ちというか心というか、ちゃんと深いところまで描けている。最近の小説はテンポ重視で、バンバン殺人が起きてバンバン解決して、はい、捕まりましたみたいな。面白いといえば面白いけど、結果何も残りませんよね。

 

(次ページ:清張作品から見る、愛とカルマの昭和

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