住田裕子『シニア六法』/認知症による万引き、高齢者ドライバーの事故……さまざまな問題に直面するシニア世代が知っておきたい法的知識
元検事で弁護士の著者兼監修者が、高齢者にまつわるトラブルのリアルで豊富な事例を集めた1冊。シニア世代が心豊かに過ごすための法的知識が、わかりやすくコンパクトにまとまっています。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
岩瀬達哉【ノンフィクション作家】
シニア六法
住田裕子 監修・著
KADOKAWA
1700円+税
装丁/APRON(植草可純、前田歩来)
装画/須山奈津希
人生100年時代を憂いなく過ごすための法的知識と心構え
「犯罪白書」には万引きによる検挙者のうち65歳以上の高齢者が4割を占めるとある。多くは認知症が原因だが、刑法の「窃盗罪」であることにかわりはない。ひどい認知症で本人に罪を問えない場合は、家族が「保督責任(被害弁償)」を負うことになるため、本書はシニア世代だけでなく、家族が注意すべきことや、取るべき対策を丁寧にアドバイスする。
高齢者のドライバーが自動車事故を起こした時の負うべき責任を知っておくことも重要だ。刑事責任だけでなく、怪我をさせた相手には民事責任も発生し「治療費・慰謝料以外に、休業損害、後遺障害がある場合の労働能力喪失割合に応じた逸失利益」を金銭に換算して支払わなければならない。この場合も家族が「本人に代わって責任を問われることは十分にありえる」。シニア世代の問題は、家族の生活を直撃する問題でもある。
悪徳業者にひっかかり、「健康器具やスポーツ用品、健康食品が山積み」になるまで買わされる被害にあっても、「取消権」を使って法的に争えば、代金を全額取り戻すことが可能となる。法律を知っているか知らないかで、この先なにが起こるかわからない老後に雲泥の差がつくわけだ。
相続で憂いを残さないためには、遺言書を作成し、相続させたくない親族を書いておくとともに、介護をしてくれた親族を「特別寄与者」に指定し、より多く相続できるよう手配する。この時、忘れてならないのは残される伴侶に「配偶者居住権」を設定しておくこと。こうしておけば住居は遺産分割の対象にならないため、一生住み続けることができる。遺言書に書いてはいけないことにも、目配りがきいている。
元検事で弁護士の著者兼監修者は、高齢者の医療、介護、法務などのあり方を研究するNPO法人長寿安心会の代表理事でもある。シニア世代が、人生100年時代を憂いなく心豊かに過ごすための法的知識と心構えをコンパクトにまとめた。豊富な事例はあまりにリアルで、肝の冷える一冊だ。
(週刊ポスト 2020年10.9号より)
初出:P+D MAGAZINE(2020/11/11)