李玟萱 著、台湾芒草心慈善協会 企画、橋本恭子 訳『私がホームレスだったころ 台湾のソーシャルワーカーが支える未来への一歩』/ホームレスそれぞれに生きる流儀と誇りがある
彼らはどんな人生を送ってきたのか、なぜホームレスになったのか。女性ジャーナリストが、台北のホームレス10人にインタビューして書きあげたノンフィクション。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
川本三郎【評論家】
私がホームレスだったころ 台湾のソーシャルワーカーが支える未来への一歩
李玟萱 著 台湾芒草心慈善協会 企画 橋本恭子 訳
白水社 2530円
装丁/天野昌樹
誇りを持って生きるホームレス10人の物語
女性のジャーナリストが台北のホームレス十人にインタビューする。どんな人生を送ってきたのか。なぜホームレスになったのか。答えたくないこともあるだろうが、登場する十人とは信頼関係があったのだろう、それぞれの物語を語っている。これが実に面白い。
六十四歳になる王子という男性は、以前は白タクをしたり、布工場で働いたりしていたが会社が倒産し、職を失った。高齢だったので次の仕事は見つからない。ホームレスになるしかなかった。
彼は路上で暮すうち同じ境遇の女性と親しくなる。自分が病気で倒れた時、親身になって助けてくれた。いま夫婦同然の暮しをしながら清掃の仕事をし、なんとか彼女に恩返ししようとしている。
ホームレスといってもほとんどが仕事を持っている。
ホームレスそれぞれに生きる流儀があり、誇りを持っている。教会に助けられ、いまではキリスト教の伝導師になった者もいる。
ホームレスの主な仕事に「人間看板」がある。広告看板を持って街を歩く。この仕事に助けられたので今では人間看板界の人事部長になり仕事を多くのホームレスに世話している者もいる。
ソーシャルワーカーの助けもあって路上に共同体が生まれている。
(週刊ポスト 2021年9.17/24号より)
初出:P+D MAGAZINE(2021/09/16)