【代官山蔦屋セレクト】新生活を迎えたあなたへ。新しいお部屋に置きたい、お洒落な写真集5選
代官山 蔦屋書店のアートコンシェルジュに、おすすめの写真集を紹介していただきました。キーワードは“新生活”。新しいお部屋に置きたくなったり、思わず人にプレゼントしたくなるような、お洒落でユニークな5冊です。写真集の最新トレンドなど、蔦屋書店ならではの視点も合わせてお楽しみください!
新緑の季節。この春から新生活を迎えた方は、新しい街や暮らしにも少しずつ慣れてきたころではないでしょうか。見慣れ始めた景色に新しい風を吹き込んでくれるものと言えば、アート。
今回は“新生活”をキーワードに、「新しいお部屋に置きたい!」「これを持って春の街を歩きたい」と思えるような、選りすぐりの写真集を5冊ご紹介します。
写真集をセレクトしてくださったのは、代官山 蔦屋書店のアートフロアリーダーであり、コンシェルジュの江川さん。この季節におすすめの写真集の他に、江川さん流の観賞の仕方やアート分野のトレンドについてもお話をお聞きしました。
新生活にちょっとしたスパイスが欲しい方も、活字はよく読むけれどアートには疎い……という方も、必見です!
プロフェッショナルが見る、2017年春のアートのトレンド
(アートコンシェルジュの江川さん)
――今回は、江川さんに“新生活”というテーマで写真集を紹介していただきます。本題の前にお聞きしたいのですが、蔦屋書店のコンシェルジュさんって、どのようなことをされているんですか?
江川:コンシェルジュは、本棚に並ぶ本のチョイスはもちろん、お客さまへの本の提案、イベントの開催なども行っています。代官山 蔦屋書店の場合は、文学、料理、旅行、絵本など、さまざまなジャンルのコンシェルジュが20名ほど在籍していますね。私はファッション、写真、美術という3つのジャンルを担当しています。どの棚にもコンシェルジュの個性が強く反映されているのが、代官山 蔦屋書店らしさかなと思います。
――ご紹介いただく写真集のジャンルの中で、最近、お客さんに人気の本があったら教えてください。
江川:写真のジャンルだと、最近は小浪次郎さんや、原美樹子さんといったフォトグラファーが人気です。小浪さんはファッション写真を多数手がけてこられた若手写真家で、原さんは2016年度の木村伊兵衛写真賞を受賞された方ですね。小浪さんの写真集は特に人気で、VAINL ARCHIVEというファッションブランドの軌跡を記録した「footptints」という写真集は、これまでに200冊くらいお買い上げいただきました。
出典:http://store.shopping.yahoo.co.jp/d-tsutayabooks/art55787j.html
それから、つい最近(※2017年2月)亡くなってしまった中国人のフォトグラファー、レン・ハンさんも人気です。ファッション・アート誌『Purple Fashion』の最新号がおそらく最後のお仕事になったかと思うのですが、もう新作が出ないということもあって、お買い求めになる方は多いですね。
出典:http://store.shopping.yahoo.co.jp/d-tsutayabooks/mag58924w
珍しい例で言うと、5月からニューヨークのメトロポリタン美術館で開かれる、コム デ ギャルソンの展覧会の図録が人気です。いま、アントワープではマルタン・マルジェラの展覧会も開催されているのですが、そちらの図録も初回入荷分は完売しました。これまであまりファッション系展覧会の図録が売れるということはなかったのですが、ファッションブランドに注目が集まっているタイミングなのかもしれません。
出典:http://store.shopping.yahoo.co.jp/d-tsutayabooks/art55808j
――ちなみに、アート分野の本を買っていかれるお客さんには、どんな方が多いですか?
江川:基本的にはコレクターの方が多いのですが、外国のお客さまが半分くらいを占めているのが当店の特徴かもしれません。海外の方は、10冊くらいまとめ買いをされて行かれることが多いですね。特に、写真集って“出会い”ですし、旅先で本に出会うと、ついついたくさん買いたくなってしまう気持ちは私もよく分かります(笑)。
荒木経惟さん、森山大道さんといったいわゆる大御所の方の写真集は海外の方に人気で、日本人だと比較的、60~70代の年配の方が買われることが多いです。
新しい季節、新しい部屋に置きたい5冊
――それでは、本題です。江川さんが選んでくださった“新生活”にぴったりな写真集を5冊、教えてください。
江川:まず最初に、この春に新しい街に引っ越してきたという方……特に上京して来られた方におすすめしたい写真集が、ファッション・フォトグラファーであるエイミー・スーの『TOKYO 35°N』です。
(『TOKYO 35°N』Ami Sioux)
これは、エイミー・スーが実際に、東京に住む写真家や編集者、デザイナー、作曲家といった50名の友人・知人に手紙を出して、その返事をもとに写真を撮りに行ったというとてもユニークなプロジェクトで。
50名それぞれに“東京のお気に入りの場所”を教えてもらうという趣旨なのですが、手紙の返事としてその場所の“地図”を描いてもらって、エイミーが地図だけを頼りに実際の場所を見つけに行っているんです。
地図の隣には「あなたが選んだ場所はどこですか?」「その場所はあなたにとって何が特別ですか?」という質問に対する回答が添えられています。たとえば写真家の花代さんは幼少時代に通っていた「ネルケン」という喫茶店を挙げていたり、ファッション・デザイナーのHachiさんは新宿のゲームセンターの奥にある特定のゲームを挙げていたり(笑)。
有名な建物や観光スポットを選ぶ人もいれば、ごく個人的な場所を選ぶ人もいて、クリエイターの個性が覗けてとても面白いんです。地図の描き方も、すごく細かい人もいれば、子どもの落書きのような人もいて、本当に人それぞれなんですよね。
この春に上京した方であれば、東京の知らないスポットを、この本を持って巡ってみるのがおすすめです。週末の前に家でこれを読んでから、それを頼りに写真の場所に行ってみたりしても楽しいかもしれませんね。逆に、東京にずっと住んでいる方でも、「こんなところあったんだ」とか「ここ見たことある!」と思えて、新しい発見がある1冊なんじゃないかなと思います。
2冊目と3冊目は、新生活に加え、「春」をテーマに選んでみました。
まずはイギリス人写真家・ダレン・アーモンドの『The Civil Dawns』。夜明けの瞬間、朝いちばんの新しい光だけで撮られた植物の写真を集めた、淡く春らしい雰囲気の写真集です。表紙も綺麗ですし、年齢や性別問わず、この季節のお部屋に飾るのにぴったりじゃないかな、と思って選びました。新しいお部屋にとても映えると思います。
(『The Civil Dawns』Darren Almond)
ダレン・アーモンドは日本が好きな方で、写真集の中には日本の比叡山で撮られた「Civil Dawn@Mt.Hiei」というシリーズも収録されています。神秘的で、ぱらぱらとめくるだけでも目に美しくて好きですね。
もう1冊は、テリ・ワイフェンバックの『As the Crow Flies』。ワイフェンバックはいまちょうど、IZU PHOTO MUSEUMや目黒のブリッツ・ギャラリーで展示が開催されていたりと、注目を浴びつつあるアメリカ人フォトグラファーです。若い方に人気のフォトグラファー・川内倫子さんとも交友が深く、共著も出されています。
(『As the Crow Flies』Terri Weifenbach/William Wylie)
フィールドワークによって撮られた花や野鳥、動物の写真が中心なのですが、背景がぼやけている中、1点にだけピントが合っているのが特徴です。こちらも春めいた感じのする、幻想的な写真集ですね。
4冊目は、都会に疲れつつある人におすすめの、ちょっと珍しい作品集を。ドイツを拠点に活動しているフォトグラファー、アンネ・シュヴァルベの『There Is A White Horse In My Garden』です。
(『There Is A White Horse In My Garden』Anne Schwalb)
この方は、人里離れた村に住んでいて、身の回りの景色や動物、日々の生活を撮るというスタイルなのですが、面白いのは、写真すべてが1枚1枚、アルバムに実際に貼られているんです。ページに印刷されているんじゃなくて、ベタッとそのまま貼られている(笑)。
これは自費出版の作品集なのですが、全編こういった形のものって私もほとんど見たことがなくて。写真担当のコンシェルジュも、最初は実物を見てびっくりしていました。まるで手作りの家族のアルバムみたいで、あたたかみがありますよね。近所の猫の写真なんかもあったりして、上京してきて東京にそろそろ疲れてきてしまった……という方にいいんじゃないかな、と思います。
最後、5冊目にご紹介するのは、サイ・トゥオンブリーの『Lyrical variations』。こちらは、自分のお部屋に飾るのはもちろん、お友達へのプレゼントにもおすすめの写真集です。
(『Lyrical variations』Cy Twombly)
トゥオンブリーは、画家、彫刻家、写真家と、いくつもの顔を持つアーティストです。絵のような表紙からもわかると思うのですが、国籍や年齢を感じさせない独特な写真を撮る人で。
彼はポラロイドカメラに凝っていたようで、まるで抽象画のような、幻想的で美しい写真を撮るんです。この作品集にはトゥオンブリーの絵画、彫刻、版画なども収録されていて、多種多様な作品群を楽しむことができます。
個人的にはやっぱりこの表紙が好きなのですが、全体的にぼんやりとした作風なので、疲れているときでもあんまり頭を使わずに眺められる感じがいいなと思っています。
お値段も写真集にしてはかなりお手頃なので、私はよくこれを引っ越した友達にプレゼントしています! そんなに好き嫌いの分かれる作風ではないと思うので、新生活を始めた人にさしあげたら、きっと喜んでもらえるのではないでしょうか。
写真集のある暮らしを、この春から
まるで花を飾るように、置くだけでお部屋の景色と気分をがらりと変えてくれるのが写真集の魅力。
新しい季節、今回ご紹介した5冊をお部屋に飾るのはもちろん、『TOKYO 35°N』を片手に街を歩いてみたり、『Lyrical variations』をお友達にプレゼントしてみたりして、よりアートを身近に感じられる暮らしを始めてみてはいかがでしょうか。
初出:P+D MAGAZINE(2017/05/29)