【童貞による童貞のための小説No.1が決まる】激闘!童貞ビブリオバトル

Sさん:100年前から童貞を見通していた――夏目漱石『三四郎』

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『三四郎』あらすじ
三四郎

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夏目漱石が1908年に発表した長編小説。九州から都会に出てきた23歳の青年、三四郎が、さまざまな人物と交流をしながら、恋をする様子が描かれる。三四郎は次第に謎めいた女・美禰子に好意を抱くようになるが、彼女は別の男と婚約してしまう……。

【ダイジェスト動画】

【童貞ビブリオバトル】夏目漱石『三四郎』 from P+D MAGAZINE on Vimeo.

 

Sさん:私が紹介したい本は、夏目漱石の『三四郎』です。
夏目漱石は「近代個人主義」、100年後を見通していた作家としてよく言われる人物で、『三四郎』自体は1900年頃に書かれた作品ですけれども、100年前から基本的に個人主義なんですね。

田舎と都心とか、そういう対立をすでに見通していただけではなくて、童貞すら見通していたと。

童貞すら


Sさん:
冒頭部分に、この主人公・三四郎がどれだけ童貞なのかわかるシーンがあるんですけど。最初、三四郎が熊本から汽車に乗って東京へ行くんですね。途中、岡山かどこかで女の人が乗ってくるんですよ。で、前の席に座るんです。

童貞なので、その人が顔を斜めにしたときに「あっこの人、女じゃん」みたいなことを急に意識するんですね。で、その人が窓から顔を出すんですよ。横顔を見て不覚にも三四郎は興奮して、「やべえ」って。弁当を食ってるんですけど、食ってる弁当を窓からバッて投げ捨てるんですよ。

投げる

Sさん:「えっ? なんで?」って思うじゃないですか。でも僕はこれ非常によくわかって。僕、大学に入学したときに女の子とコンパで同じ席になったんです。で、飯食ってたときに横を向いたら、女の子もこっちを見てたんですよ。で、「やべえ」と思って、ガンって机を叩いてしまった

それで「わっ!」みたいな。「Sくんどうしたの?」みたいな。「いや……なんでもないんだ」ってなるんですけど、そういう、童貞の動揺って言うんですかね。女の人を意識したときに、思わず弁当を投げると。

その弁当、女の人の頭にボーンと当たってしまって。女の人はハンカチでそれを拭くんですけど、三四郎は「ごめんね」と言えないんですよね。童貞なので。女の人に「ごめんね」なんて気持ち悪いから。男ってもっと堂々としていなければいけないから、開き直るべきかなとか思ってしまうんですよね。

童貞一撃フレーズ「あなたよっぽど度胸がないんですね」

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Sさん:汽車を降りたら、名古屋で一泊しなければいけなくなるんですね。そのとき、その女の人が「私、名古屋は不案内なのでちょっと宿を紹介してください」と言って一緒についてくるんですよ。で、三四郎は「マジか」と思いながらも宿を探して、結局ふたりで宿に入って。「ご夫婦ですか」とか聞かれて「あっ、うーん……」って答えるんです。

で、勝手に布団が敷かれてしまうんですね、ふたり分の。その布団でいざ寝るとなったとき、三四郎は悶々とするんですよ。「これって俺は手を出すべきなのか」と。でも結局、「僕は蚤がすごく苦手なので、布団を分けてもらっていいですか」とか言って、「気持ち悪いんで」と言いながら、布団を折りたたんで真ん中に畝みたいなのを作って、完全に女の人に背を向けて寝るんです。

で、次の日起きて、「昨日はよく眠れましたか」と言われるんですよね。「大丈夫でした」って言うんですけど、別れ際に駅のホームで、「あなたよっぽど度胸がないんですね」って言われる。

そこで「ああ、なるほどな」と思いました。僕の友達もサークルの最初のコンパで、酔った女の子を介抱して駅まで行ったらしいんですよ。その子が「私、今日このままお持ち帰りされちゃうのかな」って言ってきたらしいんですけど、そこでそいつは「いや、俺はしないけどね」と答えた。そういう、童貞の踏ん切りのつかなさに全編を通して共感できる作品ですね。

<会場からの質問>

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会場:
ほかに、作中に童貞らしいエピソードがあれば聞きたいんですが、ありますか?

Sさん:三四郎が病室に入ろうとするシーンがあるんですけど、「どうもこの先に女の人がいるらしい」って聞くんですね。で、どうやってこの取っ手を開けたらいいんだ、と思うんですよ。それで考えた末に、さっと顔だけ出す。顔だけ出したときに、女の人に見られているのを意識して「フーッ」(※格好つけるとなるのが童貞だなって思います。

会場:「フーッ」とは?

Sさん:いろいろな場面で、いろいろなことが簡単に済まないんですよ。さっと行ってしまえばいいところを、わざわざ1回開けて「フーッ」となる。やっぱり童貞って基本的に、女の人が来たら「フーッ」となるんですよね。全体的に。

Yさん:童貞には可能性がある――大江健三郎『われらの時代』

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『われらの時代』あらすじ
われらの時代

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両親を戦時中に亡くし、叔父に育てられた大学生の靖男は、娼婦の頼子と暮らしている。靖男は懸賞論文のコンテストがきっかけでフランスに留学する権利を与えられ、「汚辱と猥雑とのわが母国から脱出する!」と決意する。
一方、靖男の弟・滋は、天皇の乗る車の前に爆弾をしかける、という計画がきっかけで、徐々に大掛かりな事件に巻き込まれてゆく……。野性的で暴力的な、大江の問題作。

【ダイジェスト動画】

【童貞ビブリオバトル】大江健三郎『われらの時代』 from P+D MAGAZINE on Vimeo.

 

Yさん:ここまでおふたりの話を聞いていて思ったこととして、非常に童貞というものの地位が貶められている、と。

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……ということを思ったので、3人とも童貞は駄目だ、童貞はしょうもない、童貞は馬鹿だ、という感じを与えるのはちょっと救いがないなと思いまして、急遽私なりに考えたことで、本に即した発表をしたいと思うんですけれども。

紹介させていただく本が、大江健三郎の『われらの時代』。大江健三郎の作品の中でもこれは比較的、無名なほうだと思います。

まず言えることとして、この作品は23歳のときの大江健三郎の魂が、ひたすらに書き殴られたものなんです。私はいまちょうど同年代ですが、大江健三郎は僕と同じ歳でこれを書いた。僕は素人童貞で、彼はおそらく童貞ではないんですが、彼の思想が極めて直接的に記述されているという特徴があります。
これはいわゆる戦後文学で、『われらの時代』というタイトルの通り、いまがどういう時代で、その時代の中で自分はどう生きるのか、ということを恥ずかしがらずに書き殴っています。

童貞たちに希望を与える大江の思想

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Yさん:
この作品を読んで、私が読みとった彼の思想がひとつあります。世界中の童貞たちに対して希望を与える言葉……「女の子とやれるよ」なんて言葉よりもよほど希望を与えると思うのですが、「人間はセックスをした時点で精神年齢がストップする」

精神年齢は

Yさん:そういうことがこの作品から読みとれます。

……というのも特に若いときって、私もそうですが、何のために生きるかとか、このまま歳をとって死んでゆくのか、みたいなことを考える。その中で、人生において愛する人とセックスをするというのは間違いなく至上のイベントであり、最大の幸福のうちのひとつであると。それを一度経験してしまうと、これ以上のことはそうそうないというか、何か見通したような気持ちになってしまう。

それまで童貞であった自分は、常に模索し続けて、上を見ていたんですけど、(セックスによって)ふっと満足してしまって、昔自分が抱いていた人生に対する疑問とか、怒りとかいうものは忘れて、極めて綿密に自己暗示をかけることによって自分を納得させてしまうんです。かつて自分が描いていたモヤモヤとか苦悩とかは、忘却されてしまう。

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(大きく頷くSさん、Hさん)

Yさん:そういう意味で、童貞というものに対して非常に可能性があるというのを、この作品では言っているんですね。……僕はこの作品の筋については何ひとつ言いませんでしたが、つまりはそういうことです。

<会場からの質問>

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会場:Yさんは素人童貞とのことですが、素人童貞と真の童貞との差はどのようなところにあると思いますか?

Yさん:僕は素人童貞は2つの意味でゴールではないと思ってるんですが、まずひとつ、社会的な意味においてゴールでない。僕はベトナムでお金を払って童貞を卒業したんですが、それを周りに話したときに「素人童貞って童貞より下じゃん」「それって卒業じゃなくて中退じゃん」みたいなことを言われたわけです。

そしてもう一点、どう考えても、お金を払って行う性行為よりも、愛し合う者同士が行う性行為のほうが気持ちがいいだろうと。素人童貞は、社会的な評価においても、愛のあるセックスをできていないという点においても、真の童貞/非童貞とは差があると感じますね。

【結果発表】童貞文学No.1はどれだ!?

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白熱した3名の発表が終わりました。
最後に、「発表を聞いて、どの本がいちばん読みたくなったか」を会場投票で決定します。

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後ろを向いてもらい、会場の20名に挙手をしてもらいます。
結果は……

 

1位:Yさん(8票)
2位:Sさん(7票)
3位:Hさん(5票)

 

8票を集めて優勝したのは、大江健三郎『われらの時代』について発表したYさんでした!!

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SさんとHさん、2名の童貞たちも祝福。
Yさんに投票した方に、その理由を聞いてみました。

Uさん(会場)
最初のおふたりが童貞のネガティブさを強調したのに対し、自分はそうではないというわかりやすい対立構成で話を持っていったのが「ずるい」と感じました。そのあとも、本の紹介なのにストーリーを説明しない。それでいて『われらの時代』は読んでみたくなる。策士です、さすが東大生。

Iさん(会場)
まず、「素人童貞」というカルマを背負うことを選ぶその姿勢。
そして、童貞を卒業することで精神年齢が止まってしまうから、あえて「童貞を維持」するという考え方には、日光東照宮などに見られる“未完成の美学”を感じました。完成するということは、衰退するということなんですね。すばらしい。

Yさん「(童貞に)磨きをかけます」

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優勝者のYさんには、ささやかながら賞品として『ニシノユキヒコの恋と冒険
』(川上弘美)
『1973年のピンボール』(村上春樹)『肉体の学校』(三島由紀夫)の3冊をプレゼント。これらは登場人物がモテてモテてしょうがない、選りすぐりの“モテ小説”です!
「ありがとうございます。磨きをかけます」と微笑むYさん。

童貞のみなさまの挑戦、お待ちしています

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第1回「童貞ビブリオバトル」、楽しんでいただけましたでしょうか。
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初出:P+D MAGAZINE(2017/03/16)

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