池上彰・総理の秘密<16>
森友学園問題で、首相夫人の行動や言動が騒がれ、公人なのか私人なのか、議論が盛り上がっています。総理大臣やその家族を取り巻く状況が世間の注目を集める一方、さまざまな危機的状況がいつ訪れるかわかりません。ところで日本では、SP(セキュリティポリス)の警護対象に、総理の家族は含まれない、ということを知っていますか? SPについて、池上彰がわかりやすく解説します。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラム。
総理を守るSP
総理大臣が出かけるとき、周囲を固める背の高い男たち。これがSP(セキュリティポリス)です。警視庁警備部警護課に所属する警察官で、総理の身辺警護を担当します。
かつては総理の警護は目立たないのが望ましいとされ、総理から少し離れて距離を保つようにしてきましたが、1975年(昭和50)、三木武夫総理が右翼の暴漢に殴られて転倒した事件をきっかけに、「威圧する警護」に方針転換します。アメリカ大統領を警護するシークレットサービスをモデルに編成されました。
ちなみにシークレットサービスはFBIなどとは異なり財務省所属。もともと偽札の取締りをしていた部局が、大統領の警護も担当するようになりました。
総理の前後左右を体格のいい男たちで固め、周囲に人を寄せ付けないようにするというのが「威圧する警護」です。
身長173センチ以上で柔道や剣道、射撃の腕前が高い人が選ばれます。女性を警護することもあるので、女性のSPも増えてきました。
胸には「SP」の目立つバッジを着用していますが、何種類もの色があります。偽者が紛れ込むことを防ぐため、頻繁にバッジを付け替えています。SPによる警護の対象は総理と衆議院議長、参議院議長、国賓に限られますが、必要に応じて、他のVIP(要人)も警護します。
アメリカのシークレットサービスは大統領の家族も警護しますが、日本は総理の家族は対象外。自費で民間の警備会社に頼む人もいます。「家族も警護して欲しいよ」と、かつて私に愚痴をこぼした家族もいました。
警視庁警護課と紛らわしい名前に警視庁警衛課があります。こちらは皇室の警備。皇族方の身辺警護は皇宮警察本部の皇宮護衛官が実施し、その周辺を警備します。
「威圧する警護」
1995年(平成7)7月、街頭演説に向かう村山富市(むらやまとみいち)元総理を囲み、厳重に警備するSPや関係者。写真/共同通信社
池上彰 プロフイール
いけがみ・あきら
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。
(『池上彰と学ぶ日本の総理16』小学館より)
初出:P+D MAGAZINE(2017/03/17)