今月のイチオシ本【警察小説】

『緋色の残響』
長岡弘樹

双葉社 本体1400円+税

 ある短篇が文学賞を受賞、それを収めた本もロングセラーとなる。長岡弘樹にとってそんなブレイク作に当たるのが、『傍聞き』だ。女刑事の親子のドラマを描いた同作はその後シリーズ化されたとばかり思っていたが、筆者の勘違い。本書が初のシリーズ化作品となる。

 全五篇収録。

 羽角啓子は杵坂署強行犯係のベテラン刑事。冒頭の「黒い遺品」は五月半ば、不良グループのサブリーダーが撲殺された事件の捜査が描かれる。啓子は現場周辺の聞き込みに回るが、捜査はなかなか進展しない。被害者のインタビュー記事を書いた東州日報の記者・久内がやはり地取り取材に当たっていたが、彼は啓子個人にも興味を抱いているようだった。やがてある主婦から子供の姿を見たという証言を得るが、その子供の外見は啓子の一人娘、中一の菜月と似ていた。

 さらに奈月も事件発生時、現場付近で不審な男を見たと証言する。

 菜月の目撃証言から似顔絵が作られるが、今ひとつピンとこない。似顔絵捜査は失敗に終わったかに見えたが……。

 警察小説の男刑事は家庭生活が破綻しているケースが少なくないが、羽角啓子の場合、殉職した元刑事の夫との関係は良好で菜月ともうまくいっている。本書の五篇も「傍聞き」と同様、犯罪捜査の行方に親子の絆をとらえた家族劇が織り込まれていくところに特色がある。

 物語の視点は母娘交互で、続く「翳った水槽」では菜月の担任教師が殺され、彼女がその第一発見者になる。表題作の第三話は菜月がかつて通っていたピアノ教室で生徒が変死し、第四話「暗い聖域」は菜月の同級生男子が崖から突き落とされるといった具合に、母娘の周辺では何かと揉めごとが多いようだが、ふたりとも常に前向きというか、へこたれない。菜月が殺人犯の無実を晴らそうとする最終話「無色のサファイア」は、そうした羽角家の姿勢が前面に出て爽やかな読後感を残す。

 本書は警察小説であり、家族小説であると同時に菜月の成長小説でもある。その後の姿をとらえた続集が望まれる。

(文/香山二三郎)
〈「STORY BOX」2020年6月号掲載〉
佐藤 優「危機の読書」〈第1回〉西郷隆盛が貫いた「自己愛」の否定
◎編集者コラム◎ 『その手を離すのは、私』著/クレア・マッキントッシュ 訳/高橋尚子