今月のイチオシ本【デビュー小説】

『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』
竹田人造

人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル

ハヤカワ文庫 本体980円+税

 最高にポップでテッキーな最新型のAIコンゲーム小説が登場した。その名も、『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』。夢破れたAI技術者の三ノ瀬が、犯罪コンサルタントの五嶋と心ならずもタッグを組み、技術屋の知識と経験を総動員して一攫千金に挑む。ターゲットは、自動運転の現金輸送車、歌舞伎町ヤクザの若頭、博多の巨大カジノ、マカオマフィアの女ボス……。著者いわく、〝落ちても折れてもまだ諦めきれない奴らの人生逆転スラップスティック。AIを騙し、ヤクザを騙し、カジノも騙す、前代未聞の強盗作戦〟。

 コミカルで軽快な語り口は、さながらエンジニア版《疫病神》シリーズ(黒川博行)か。もっともこの小説、ミステリ系の新人賞ではなく、2020年のハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作(応募時のタイトルは、「電子の泥舟に金貨を積んで」)。しかも、全3話のうちの第1話は、第9回創元SF短編賞で新井素子賞(選考委員特別賞)を受賞した「アドバーサリアル・パイパーズ、あるいは最後の現金強盗」が原型。当然、若干のSF要素もあり、首都圏ビッグデータ保安システム特別法が施行され、凶悪犯罪が激減した近未来が背景。AI技術もいまより多少進歩しているものの、日本はその最前線からとり残されつつあり、かつてトップクラスのAIエンジニアだった三ノ瀬の挫折と鬱屈もそのへんと関係している。最終的に物語の行方を決めるのは、主人公のAI哲学。巻末の選評を読むと、彼の決断に否定的な選考委員もいたようだが、むしろこのほうがいまのSFらしいんじゃないかと思った。

 著者が機械学習の専門家というだけあって、AIの弱点をついて誤認識させる Adversarial Example(敵対的サンプル)はじめ、専門用語・技術用語が乱舞するが、機械音痴を自認する新井素子さんが「読んでいてとても楽しかった」と絶賛したとおり、技術方面の知識ゼロでも問題なく楽しめる。往年のクエンティン・タランティーノ/ガイ・リッチー風の犯罪サスペンスが好きな人にぜひお薦めしたい。

(文/大森 望)
〈「STORY BOX」2021年1月号掲載〉

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