今月のイチオシ本 ミステリー小説 宇田川拓也

『カミカゼの邦』
神野オキナ
徳間書店

 面白本を探し求める全国の読者諸兄よ、読んで驚け! 神野オキナ『カミカゼの邦』は、そう高らかに声を上げたくなる飛び切りの作品だ。

 尖閣諸島のひとつである魚釣島の騒動を発端に、日本と中国が開戦。沖縄を主戦場に約半年間続いた戦争は、中国がふたつに分裂し、日本が勝つ形で終戦を迎える。戦時中、米軍によって組織された民間人の兵士たち「琉球義勇軍」で小隊を率いていた渋谷賢雄は、義勇軍解散後、東京へ移住。そこでかつての戦友である元韓国陸軍少尉の永と偶然出会い、・物の移送・を頼まれて引き受ける。ところが、直後に永は殺され、入れ替わるように外務省の国際情報統括官組織の人間だというタカハラが現れる。彼は賢雄に《紙の虎》なる中国陸軍の潜入工作員の追跡を要請。この一連の流れの裏側で蠢く、壮大な謀略とは果たして? ふたたび苛烈な戦いへと身を投じることとなった賢雄は、ともに死線を潜り抜けた部下たちに声を掛ける……。

 いまこんなにも読む者を否応なく熱くさせる、燃焼促進剤の塊のごとき冒険謀略アクションはほかにない。突き抜けた豪傑ぶりを発揮する個性的な部下たちとともに賢雄が繰り広げる死闘は、敵を殺すことを一瞬もためらわず、まるで活字の間から血肉や硝煙が噴き上がるかのような激しさで圧倒される。また、物語が映し出す・日本・は架空だが、そこから透けて見える、国に漂う危険な非情さは、じつにリアルだ。著者は沖縄県出身、在住で、ライトノベルの分野で十八年近いキャリアを重ねてきたベテランなのだが、これまでの作品にも込められていた沖縄の人間だからこその穏やかならぬ想いとその生々しさは無関係ではあるまい。激しさと対照的に描かれる、荒ぶる者たちが散り際に見せる純心、ある童話の皮肉な結末と悲哀が重なるクライマックスの情景、そしてタイトルの真意も印象的だ。

 過激で途轍もなく、もはや「平和」が欺瞞や腐敗のカモフラージュでしかない、このろくでもない現代を狙い撃つ熱き怒りの巨弾を見逃すな。改めて繰り返しておく。全国の読者諸兄よ、読んで驚け!

(文/宇田川拓也)
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