今月のイチオシ本【ノンフィクション】
冒頭、こんな言葉から始まる。
──これは神話ではない。伝説でもない。/森のずっと奥。/一つの集落が語り継いできた、別れの記憶だ。──
百年以上前、アマゾンの森の、ずっと奥のゴム農園で先住民イネ族の五人の男たちが反乱を起こし、パトロンを殺して仲間と共に逃げ出した。追ってくる用心棒たちから逃げるため仲間は二手に分かれる。彼らは再び会うことはなかった。
──森で別れた仲間に会いたい。/息子たちよ、友を探してくれ。──
イネ族出身のロメウ・ポンシアーノ・セバスチャンは欧米の国から資金援助を受けたNGOに才能を見出され、経営学の知識とスペイン語を習得した青年だ。理事に就任したロメウは白人と先住民の仲立ちとなり、出身集落の村長となった。 ある日、彼のもとにペルー政府文化省から依頼が舞い込む。「例の人々」と呼ばれる部族名も言語族もわからない謎の先住民が現れたというのだ。
文明社会と未接触の先住民「イゾラド」は2002年のブラジルの公式発表ではブラジル国内に58か所、アマゾンの森の中に推定で三百人から五千人いるという。素っ裸で弓矢を持ち、時に辺境の人々を襲う「例の人々」に不安と恐怖が広がっていた。その監視役にロメウは任命されたのだ。彼らはノモレなのか。
ロメウは「例の人々」との接触に成功する。言葉もイネ族に酷似していて、意思の疎通に問題はない。バナナなどのプレゼントによって友好関係も築くことができた。そう彼は信じた。
だが事はそう簡単には運ばない。こんな地まで観光客はやってきた。注意深く接触しているロメウたちに反し、彼らはエンジン付きの舟で無遠慮に近づき写真を撮る。彼らはまた森に潜ってしまう。
本書は、一昨年夏に放送されたNHKスペシャル「大アマゾン 最後のイゾラド」から派生した作品だ。アマゾンにいまだに残る未開の人たちにも驚いたが、それがわずか百年前に分かれた仲間であることが切ない。いつの間にか主人公のロメウと同化してノモレを見ている私がいた。