奇想天外な冒険小説『バベル九朔』は万城目学デビュー10周年を飾る新作!
10周年を迎え、さらなる磨きがかかる「万城目ワールド」!青春エンタメ小説として楽しめる一冊の魅力を著者に訊きました!
【今日を楽しむSENVEN’S LIBRARY 話題の著者に訊きました!】
万城目学さん
MANABU MAKIME
1976年大阪府生まれ。化学繊維会社勤務を経て2006年『鴨川ホルモー』でデビュー。『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』『偉大なる、しゅららぼん』『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』や、エッセイ集『ザ・万歩計』『ザ・万遊記』『ザ・万字固め』など著書多数。
デビューして10年、
今後はどんどん
深い霧に突っ込む
方向に行くんじゃ
ないかと(笑い)
デビュー10周年を飾る
本作は、デビュー以前の
経験も存分に盛り込んだ、
テナントビルを舞台にした
奇想天外な冒険小説
『バベル九朔』
KADOKAWA 1728円
第1章「水道・電気メーター検針、殺鼠剤設置、明細配付」に始まる全10章からなる。テナントビル「バベル九朔」の管理人をしながら作家を目指す27才の九朔の前に、ある日、全身黒ずくめで深い谷間が覗く「カラス女」が現れて問う。「扉は、どこ?」――。
神話を思わせる不思議な書名は、小説の舞台となる5階建ての雑居ビルの名前だ。主人公同様、万城目さんも、大学を出て勤めた会社を辞め、親類が所有する東京の雑居ビルで小説家をめざして投稿しながら管理人をした時期があるという。
「ほんとは、もう会社を辞めてたんですけど、親類には『東京に転勤になった』と嘘ついて、『そこから通っていいか?』って。引っ越してから、『実はもう会社辞めてん』と打ち明けました。『鴨川ホルモー』でデビューするまでは、発表のあてもない小説を書きながら、ゴミ掃除や電気代や水道代の徴収、ネズミやカラスと戦う管理人業務をしてました。そのあたりは『自伝的』ですね」
『とっぴんぱらりの風太郎』から2年半ぶりとなる長編は、もともと7年前に小説雑誌に発表した短編がもとになっている。
「『めぞん一刻』のイメージがありまして。アパートの1号室の住人が『一之瀬さん』だったように、ビルの1階は『レコ一』、2階に双見さん、3階は蜜村さん、4階は四条さんにして、管理人とテナントとのどたばた、こぢんまりした雑居ビル物語として1章分を書いたんです」
5年のブランクがあったが、ぜひあの続きをと編集者に言われ、設定はそのままに、奇想天外な長編小説としてストーリーを考え直した。
「26、7才の青年をどう描くか。5年もたつと、自分の中で小説の描き方も変わっています。『九朔くん(主人公)て、こういう人やったな』と思い出しつつ書いていったので意外に時間がかかりました。ビルから一歩も出ないという制約で、どうやって劇的な展開にするか。手持ちのカードが何もない状態でひねりだしていくのは相当しんどかったですね」
「バベルなのに5階建て、という一発ギャグ」だったはずのビルの名前は、祖父の秘密に深くかかわり、その後の展開にも大きな意味をなしてくる。知らず知らず、「ど真ん中のタイトル」をつけていたことは、自分でも不思議に思ったそうだ。「縦糸と横糸を組み合わせて話をつくるのがくせなんです。今回は横糸が小説家をめざす若者の、夢やあきらめの話なので、縦糸として祖父からつながるファミリーヒストリーを入れたくなりました」
2月で40才に。作家生活も10周年、心境の変化はあるだろうか。
「この程度の人間やったんかな、とわかってきた(笑い)。ほとんど休まずに書いて9作、『もうちょっとできたん違うかな』って思う。ただ今回、霧で前が全く見えないなかでもなんとか書けたので、今後はどんどん深い霧に突っ込む方向に行くんじゃないかと。しんどいですけどね」
素顔を知るための
SEVEN’S
Question―2
Q1 最近読んで面白かった本は?
アンディ・ウィアー『火星の人』(映画『オデッセイ』原作)。映画よりずっと面白かった。
Q2 よく見るテレビ番組は?
冠番組が好きです。『渡辺篤史の建もの探訪』『ブラタモリ』『やべっちF.C.』『片岡愛之助の解明!歴史捜査』『吉田類の酒場放浪記』‥‥。
Q3 最近面白かった映画は?
『クリード』。
Q4 趣味は何ですか?
今やりたいのは、プラモデルを作りながら邦画を見ること。最近発見したんですが、映画を流しながら集中して手を動かすと、ものすごいリラックスすることに気づいたんです。何も考えずにすむ。なので、これから作るプラモデルとDVDを買い込みました。『ぼんち』見ながら『スター・ウォーズ』のストーム・トルーパー作るとか、ミレニアム・ファルコン号を作りながら『八甲田山』とか、楽しみでしかたない。3時間なんてあっという間ですよ。
Q5 1日のスケジュールは?
子供が寝てからが仕事のコアタイムなので、夜の8時から明け方の5~6時くらいですね。子供が小学校へ行く準備をしているところに仕事場から帰ってきて、顔見て12時ぐらいまで寝ます。
(取材・文/佐久間文子)
(撮影/政川慎治)
(女性セブン2016年4月14日号より)
初出:P+D MAGAZINE(2016/04/09)